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忠告11 これが〝答え〟です
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しおりを挟む「……一緒にいて」
両手を伸ばし、自分からその背中に腕を巻き付け顔を埋める。
はじめて腕を回したその体は、想像以上に男らしくて、私と同じくらい鼓動が早かった。
「ずっと傍にいたいと思ったから、私はこの一案に賭けたんです――」
『――短期間なんて嫌だから、この偽装結婚を大いに利用したいと思います』
今思えば、なんて無茶なことを言ったんだろうって思う。
でも……諦めなくて、本当に良かったと思う。
「後から無効だなんて言われても、泣いて言うこと聞きませんよ……?」
「――言う訳ないでしょう」
大好きな智秋さんの顔がまた滲んでしまったその瞬間、
少しだけ困ったように顔を歪めた智秋さんは、私の頬にそっと手を寄せてきた。
「あなたがいない生活は、もう考えられないんだ……」
鼻先が近づき、瞬く間に唇が触れ合った。
角度を変えると、さらに深く溶け合った。
心が幸福感に埋め尽くされ、幸せでどうにかなってしまいそうだった。
……ずっと一緒にいられる。
期限なんて気にせず、隣にいられる。
それがリアルだと確かめながら、無我夢中で唇を繋ぎ合わせた。
今までのキスとは違う。
気持ちの通じ合えたキスは媚薬みたいに甘美で、堰き止めていた思いを止めることができなかった。
やがて、割り込んできた舌に、柔らかく舌を絡められる。
ドキドキしながら応えると、腰に触れる智秋さんの指先に力籠もり、さらに奥深くまで求められた。
ゾクゾクと、体が震える。
こみ上げてくる熱いものを、もう止めることができなかった。
彼のことが、欲しくなる。
ねだる様にして何度も舌を絡ませ、唾液が唇の端からつぅっと零れて――。
「だめだ……こんなんじゃ、足りない……」
ふいに、少しだけ唇が離れた瞬間、智秋さんが私の唇の端をぺろりと舐めながら色っぽくささやく。
「キスなんかじゃ足りない……」
そんな甘い返事が耳に届いた瞬間、すっかり脱力していた私の身体がフワリと浮いた。
「わっ……」
お姫様抱っこ……!
「一刻も早く帰って、あなたを愛したい――」
智秋さんがそんな驚くことを言いながら、ツカツカ歩みはじめる。
――それって……。
ドキドキしながら智秋さんを見つめると、
「――俺の我慢なんて、もう〝あの夜〟からとっくに擦り切れているんで」
熱の籠もったオトコの眼差しで私を射貫き、甘い甘い爆弾を投下してきた。
あの夜……?
いつの夜か、よくわからないけれど。
智秋さんだけじゃない。
「私も、同じ気持ちです」
誰もいないエレベーターホールで小さくそう告げると、私たちは微笑み合って、
もう一度だけお互いの気持ちを確認するようにして、そっと唇を合わせた。
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