秘書室の悪魔とお見合いしたら〜クールな秘書と偽装結婚することになり、いつの間にか愛でられていました～

忠告１０(前編) 今は、甘やかされておきなさい

７

「……ありがとうございます」

　昔から言い方は厳しいけれど、彼は、助けを必要とする相手を絶対に突き離したりはしない。

　みんなは冷たいとか悪魔だとか言うけれど……ずっと見てきた私は、知っていた。

　前よりも仲良くなれたせいあって、少しだけ分かりやすい……上司でもある彼からの、全力の信頼と激励だ。
　たぶんこれまでだったら『まぁ、何かあれば報告しなさい』くらいだっただろう。
　
　これは、最高の原動力かもしれない。
　
「ありがとうございます……なら、ちゃんと成功させたら……デートに連れて行ってくださいね」

「……指輪のリサイズもしなければならないですからね。それまでに、あなたを満足させる接待を考えておきましょう――」

　嬉しくなって弾みながら微笑む彼の隣に座った、直後。
　あっと思った時には、肩を引き寄せられいつのまにか眼鏡を払った素顔が近づいてきていて――。

　瞬く間に、ふたりの唇が重なっていた。


　――まただ。
　一度軽く触れ、何度か啄ばんだあと、自然と角度を変えて深くなるキス。
　当たり前のように唇を割って舌が侵入してきて、くちゅりと私の舌に柔らかく絡みつく。

　――あの夜から、ふとした瞬間、いとも自然な流れで唇を合わせられるようになった。

　彼がなにを思って、私にキスをするのかわからないけれど、

　〝イケナイ〟と理性の働く一方で、好きな人との触れ合いに貪欲になる気持ちが、止められない。

　あの記憶のない一夜で、私たちを変える何かがあったのだろうか――。

　こんなキス……勘違いしてしまいそうだ。

　この行動に結びつく言葉は、まだなんにももらっていないし。私たちが、偽装結婚であることは変わらない。

　だけど、もっと、もっと、欲しくなる――。

　キスだけじゃなくて、心も身体も繋がり合いたくなる。

　智秋さんが……欲しくなるの――。

　今夜も困惑に阻まれたまま、熱に溶かされ溺れてしまう。