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忠告8 side chiaki
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しおりを挟む程なくしてタクシーは自宅に到着し、桜さんを抱いて降りる。
「着きましたよ」
センサーライトで明るくなっていく部屋を移動しながら、腕の中の彼女に声をかけると、ううーん、と苦しそうに唸る。
本当なら渡した指輪をどうしているのか探るつもりだったが……仕方ない。こうなってしまえば、このまま寝かせるしかないだろう。飲酒によるダメージは俺もしっている。
シングルベッドと小さなテーブル、衣装ケースのみの彼女の殺風景な部屋に踏み入れ、桃色のカバーのかかった彼女の香りのするベッドに近づく。
脱力した小さな体を真ん中にそっと寝かせた。
「……ち、あき……さん?」
腕を抜くと、桜さんの潤んだ大きな瞳がうっすら開く。
まだ酔って意識が混濁しているのだろう。瞳が子犬みたいにうるうると無防備に輝いて……見つめられると悩ましい気分になってくる。
「気分は?」
「あつい……です」
平静を装い、ほんのり色づく頬に手のひらを当てた。
あぁ、顔はもちろん首の方まで熱いな……。可哀想に。
……藤森め。後で覚えてろ。
「水を持ってくるから、それ飲んでから休みましょう」
スーツの上着を脱いでサッと立ち上がろうとすると。
離れかけたシャツの袖が遠慮がちに後ろからくいっと引かれた。
「……いっちゃうの……?」
ベットから弱々しい声で縋るように見つめられ、鼓動が大きく波打つ。
長い睫毛に縁取られた大きくて潤んだ酔眼。上気した頬や色づいた薔薇色の唇。
今すぐ襲い掛かりたい気分になるが、慌てて脳内に天使の衣装を着た俺が現れ――悪魔の格好をした俺をひっ捕まえる。
「すぐに戻るから、いいこにしててください」
らしくない甘いセリフを吐きながら頭を撫で、そそくさと部屋を出る。
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