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忠告7 なんであなたが飲まされている

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「で、坪井さんになにを頼まれたんですか?」

 チャイム前なのもあって、午後に予定している――レセプションパーティーの招待客のリストアップに軽ーく手を付けていきながら、ふと問いかける。新しい事は常に吸収していきたい。昼休みを早々と切り上げたのもこのためだ。

 藤森さんは早くも渡したファイルを広げ、支給されているタブレット端末にメモを連ねていた。

「あぁ、歓迎会のことだ。坪井あいつ、今回幹事やってんだろ? だけどあいつ酒なんて一滴も飲まないから、店側に出す酒のリストの確認を頼まれたんだ。酒の好みも、人によってあんだろ?」

 あー、なるほど。それでリストを。

「うちの飲み会にお酒は欠かせませんからね」

 うちの役員たちは、年に一度夏季に、日頃尽力している秘書たちへ労りを込めた飲み会を開いてくれる。今回の歓迎会は、日付も近いことからそれを兼ねて行うことになっているのだ。
 (幹事が私たちなのは、まぁ仕方ない)

 しかし、その飲み会。

 無類のお酒好きが多く。英子室長や藤森さんを筆頭に、飛ぶようにボトルが空けられていくことで有名なのだ。

 ここ近年開催する会員制のホテルラウンジからは、メニューと共に酒類等の方の打ち合わせも求められていると聞く。

 日頃お酒を嗜まない人からすれば、会食のセッティングよりも厄介なイベントだろう。
 まだ幹事を経験したことのない私には、想像しかできないけれど。

「島田の奴が参加するのは、何年ぶりだろうな――。さぞかしこの歓迎会に怯えてんだろーが」

 印刷した書類を回収しにいこうとする最中、急に藤森さんの鼻で笑うような声が聞こえてきて、足を止め首をひねる。

「……ゼネラルマネージャーが、なんで怯えるんですか?」

「おいおい、國井。知らないのか?」

 藤森さんは、すぐに顔をあげてメモしていたタブレット端末を置いて腕組みをする。その様子はどこか、言いたくてウズウズしているようにも見えた。

「島田の弱点といえば酒! こりゃあ、常識中の常識だろう?」 

 意外な情報に「えっ!」と書類を拾っていた顔を上げる私。

 あの智秋さんが……お酒に弱い!?

 気になって耳がダンボになってしまう。

本社ここを出てからは、それに託けて一切顔を出さなくなったが、それまでは毎年イヤイヤながらもきてたんだ。あの捻くれた性格だから、自分じゃ絶対に認めないが、いつもグラス半分ほどの酒も飲むのがやっとだったぞ」

 私が入社してから、飲み会で智秋さんを見かけたことはない。
 グループ内の秘書室を統括する立場であれば、来ていて当たり前なはずだ。忙しいと解釈していたけれど、なんと、そういうことだったのか。

「上から勧められたとはいえ、いつもの口ぶりで断ればいいのによー、あいつは妙に律儀というか、バカ真面目というか……ギリギリまで拒まなねぇんだ。帰り道のベンチで頭抱えてて、タクシーで家まで付き添ったこともあんぞ」

「付き添い……?!」

 ポンポン出てくる真相に驚愕して、ロッカーの前で資料を探っていた手元がいつの間にか止まっていた。

 帰り道というあたりが、完璧な彼らしいけれど。

 ……酔い潰れたってこと? それも犬猿と言われる藤森さんを頼るなんて。

「それは驚きです」

 作業の終わった藤森さんは、礼を言いながらファイルを私のデスクに戻し、こちらにやってきた。

「――でも、今回の歓迎会ばかりは島田も行かなきゃならねーだろう?」

 それはそうだろう。

ボスクリスの歓迎会ですからね――……あっ、すみません」

 藤森さんは、それとなく私の手元を覗き込み、探していたファイルと資料をロッカーから引き抜き手渡してくれる。

「それに、さっきちぃーとばかり、会長に焚き付けられたからな~」

 ……会長に?

 様子を見に行ったっていう、社内案内のときだろうか?

「……なにかあったんですか?」

「ああん? そりゃー俺の口から言ったら面白くねーなー。気になるなら歓迎会であいつをベロベロに酔わせて迫って、白状させ――いっっでぇー!!」

 面白おかしく疑問を煙に巻こうとする藤森さんの頭上に、どこからかともなく、ものすっごい分厚いディーリングファイルがやってきて、なんとも絶妙なタイミングでゴッツーン! と落下してきた。

 頭を押さえてしゃがみ込む藤森さん。

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