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忠告5 今夜、あなたの時間をください
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しおりを挟む「まぁとにかく、明日からは賑やかになりそうですね」
「ははっ、そうだな。色々とやつのフォローを頼んだぞ、島田」
……賑やか? と思いつつ振られた智秋さんに視線を移すと、
ナフキンで丁寧に口元をぬぐいながら、「承知しております」とあからさまに眉間に寄せていた。
「なにか?」と智秋さんに聞いてみると
「実は、彼は見目麗しい美男子でね。まぁ、自慢するわけじゃぁないが……うちの永斗ともいい勝負になるな――あの顔は」
「それに加えて、独身の優しい貴公子ともなれば、社内の女性たちは目の色を変えるでしょうね」
智秋さんが口を開く前に、会長がどこか誇らしげに答えたあと、藤森さんが楽しげに同調する。
智秋さんがこれまでも、永斗社長に群がる女性社員たちを、スナイパーのような鋭い視線で圧していたのは見かけたことがある。
っていうと、その御役目はここにきても変わらない模様? だから不機嫌そうなのか。
「だが――それよりも問題なのは」
藤森さんが私を挟んでうんざりとグラスに口をつける智秋さんを覗き込んできて――
「島田も優しさの一つでも見せなきゃ國井のハートも掻っ攫われるかもしれないっていうところかな? いくら新婚でも女性は優しい男に弱いからな――」
なーんて仕事仕様のエセ紳士面で突っかかってくる。
もちろん会長から見えない位置で、その顔はニシシとでも言いたげ。
――げっ! さっき疑ってたくせに!
またちょっかい出して……っ!
それもそんな反応に困る話題を!
「ふ、ふじもりさ……」とやんわり制しそうとしたそのとき。
「いきなり何かと思えば――」
反射的に藤森さんにツッコもうと宙を浮いていた右手が、パシンとなにかに捕われテーブルの下に消えていく。
へ……?
驚いてふりかえると、まっすぐ藤森さんを見据える智秋さんがいて
「――それは困りますね……。私みたいな男と添い遂げようとしてくれるのは、後にも先にも彼女しかいないと思うので……逃さないようにしっかりと繋ぎ止めておかなくてはなりませんね」
藤森さんを見て言い切り、それから石化する私に「ですよね?」なんてニッコリと胡っ散臭い…いや、きれいな笑顔を浮かべる。
一方、テーブルの下では私の手を握ったままだ。
な、な、な……――!
ボフン!と爆発する脳内。
挑発に乗った、偽装関係を取り繕う演出なのは、充分わかってるけれど。
やりすぎじゃないでしょうか。
――手っ…なんで握ってるの!
「なっ! お前っ! ロボのくせに、恥ずかしげもなく、堂々と惚気やがって……!」
って! 藤森さんまでなに赤くなってるの!
さっきまで関係を疑っていたくせに!
直後、会長の前であることを思い出したようで、ゴホン!と慌てて咳払いをしている。
「はっはっは! 仲が良くてなによりじゃ」
「そ、そうですね。まさかムッツ…島田がこんなことを言うなんて、ガハハ……」
色々と隠しきれていない。
「会長のお引き合わせのおかげです」
なんて、智秋さんは戻ったポーカーフェイスで、嬉しそうな会長と動揺を隠しきれていない藤本さんにそう返し、再び話しに花を咲かせはじめるけれど。
あれ……いつ、離すのだろう。
テーブルの下では、彼の骨ばった大きな手が、私の手をすっぽり握ったまま。
それとなく覗いて確認したけど、うん、会長はもちろん藤森さんからも見えない。
繋ぐ必要性はないはずだ。
なら、なんで……?
けれども待てども待てどもその手が開放されることはなくて――
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