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忠告5 今夜、あなたの時間をください
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「いやぁ……実に楽しい時間だったのぉ――」
まぁ、そんなこんなでどうにか会長と共に鑑賞を終えて。
藤森さんが急遽会長の名前を使って予約してくれた館内の高級レストランで、円卓を囲む私たち。
最高級のオシャレなイタリアンディナー。
グラスには淡いイエローのノンアルコールのシャンパン。
犬猿コンビに挟まれた小人のような私の前で食事をする会長は、ドームシアターの圧倒的な世界観に魅了されたようで思いを巡らせていた。
「國井さんは、どうだったかな? やっぱり若い女性には、感じ得られるものが違ったかな?」
さきほど目の前で削られたトリュフの乗るグラタンを口に運んでいると、どうしてなのか――まずはじめに私に感想を求めてきた。
「私……ですか?」
上司がふたりいるのに?
そう思いつつも、各々から感じる視線から、予めどこか定められていたような雰囲気を感じ取り、「そ、そうですねぇ」と、さっき目にした感動を素直に言葉にしていくしかなくなる。
「プラネタリウムにも最先端の技術にも、詳しいわけじゃないのですが、私はスケールの大きさに感動しました――」
プラネタリウムには過去何度か行ったことがあったけれども、『天球劇場』はそんなの比ではないくらい、終始感動の嵐だった。
心地よいリライニングシートに転んで、宇宙に溶け込むような感覚で。
まるで本物のような奥行き感のある星空に心を奪われた。
手を伸ばしたら届いてしまいそうで。だけどどこか儚い、闇の中で美しく映える高貴な色彩。
投影できる星空は、紀元前100万年から紀元後100万年までの膨大な範囲と、ナレーションのお姉さんが清らかな声で説明してくれていて――。
「もしカップルや夫婦で訪れたら、『思い出のあの星空を――』なんていうロマンチックなことも可能なんじゃないかな? とか。大切な人との誕生日や記念日に利用したら、忘れられない一日になるんじゃないかな? とか。映像はもちろんのこと、プログラムの記憶量にも驚きました」
さきほど智秋さんが車で教えてくれた技術関連にも軽く触れながらそう口にしていると、
ふと、夜空に釘付けの綺麗な横顔思い出してしまった。
『…なにか?』
そう。隣との席が近いのもあって、暗闇の中、うっとり見惚れていたことに気づかれてしまったんだ。
『……あ、いえ。とても綺麗で……来られてよかったなと、思ってしまって――』
慌てて小声で言葉を紡ぐ私。
つい、仕事を兼ねているというのを、忘れてしまいそうになる。
星の僅かな光に照らされる端正な顔は、すぐに星空へと戻ってしまったけれど、
『……そうですね。私もこういう純粋で偽りのないものは、――とても好ましいです』
あまりにも穏やかな表情で、そんなことを言うものだから……
しばらく脳裏から離れてくれなかったんだ。
私にはもったいないくらいに、素敵なひとときだった。
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