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忠告5 今夜、あなたの時間をください
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しおりを挟むやるからには――しっかりと智秋さんの力にもなりたい。
それでもって、自分も、精一杯この期間で彼に近づきたいと思う。
そして、その週の金曜日。終業後の執務室にて、今回のラスボスこと会長のところにふたりで報告に向かうと、誰よりも大喜びをしてくれて――
『いやぁ、良かった良かった! あの見合いのあとすぐにプロポーズとは。隅に置けんなぁ~島田も。あっ! 永斗やはじめにも連絡せんと!』
もとより交際宣言(?)をしていたこともあり、なんの疑いもない様子で。誰よりも祝福してくれているのが伝わってきた。
大切な役目を終え、安堵を感じていた私の背中に、ポンと触れた大きな手。とても温かくて嬉しかった。
そして、その後の一週間で、入籍や引っ越しの手配や会社(室長や総務など)への報告を済ませて。
広い部屋への引っ越しを検討していたことから、これまで住んでいたアパートは引き払い。
三日前の土曜日には、私の荷物が彼のマンションの一室に運び込まれた。
一人暮らし時に購入した、古びた家電や家具は廃棄。必要最低限のもの以外は、実家やリユースセンターに引き取ってもらうなどした。
ありがたいことに、手配はぜんぶぜんぶ智秋さんだ。
『これくらいは当然です。この前“だいじにする”と伝えたでしょう』
お礼を伝えると、涼し気なポーカーフェイスが、さらりとそんなことを言うので、胸がとてもドキドキして痛かった。
『――いや、違うか。あなたから口説いてくれるんでしたっけ……』
『――っえぁ! そ、それは……っ!』
……私をからかうというオプションも、しっかりと覚えてしまったらしいけれど。
『楽しみにしてます……。よろしく、“桜さん”』
『……よろしくお願いします……ち、ちちち、智秋さん?』
『……やりなおし、不自然です』
まぁ、そんなわけで、仕事では見せないちょっと意地悪なところや、変わらず辛辣さはあるけれども、
所々彼なりの小さな気遣いや優しさが見えて、さらに心惹かれっぱなしな私。
――新たな生活は、はじまった。
挨拶や引っ越し作業で慌ただしかったり。
引っ越しを終えた週末も、用意してくれた部屋で荷物を片付けたり、彼の方にも急遽永斗社長への同行が舞い込んだりなどして、まだ家の中じゃまともに食事や会話もできていないけれども。
前よりはうんと、仲良くなれてる気がする。
まぁ、秘書室内は、そんな当の偽の旦那さまが、まだここにはいないのをいいことに。
朝一番から大騒ぎだったけれど。
とりあえず、やることを一段落して、私はホッと一安心だ。
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