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水不足

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 屋敷の水源は、全て調理場にある水瓶から湧き出てくる水に頼っている。

 これは飲料水や調理用水としてだけではなく、畑に使う農業用水としても使われている。

 まさに俺たちの命を繋ぐありがたい水瓶なわけだ。

 そんな水瓶の周りに畑チームとメイドチームのハイエルフが集まり深刻な表情で話し込んでいる。

「最近雨が少なかったからでは?」

「いえ、私たちの創造神様と使徒様への信仰心が不足しているからでしょう」

「しかしこのままでは使徒様もお困りになってしまうからそれはないのでは? それに信仰心が不足しているとは思えませんが?」

「そうよ。わたしなんてこの身体を捧げても構わないくらいお慕いしているわ」

「わたしもわたしも!」

「にゃー」

 おっと、フルスタもいたのか。お前は俺よりもハイエルフたちに懐いてるよな。たまには俺にもお腹を撫でさせてくれ。

 うーん、ふわふわで気持ちいい。それで、みんなは何をやってるんだ?

「水瓶の水が、少しずつ量が減ってきています」

「え、そうなのか?」

「はい。気付いたのは1週間くらい前なのですが、先週と比べても3割くらい減っているのではないかと」

 ハイエルフたちに譲って貰って俺も水瓶を確認する。

 なるほど。確かに減っているな。俺が来た頃と比べると半分以下になっているような気がする。

「原因は分かるか?」

 聞いてはみたが、全員が首を振る。それはそうか、だからみんな話し込んでいたんだもんな。

「斜め45度からチョップしてみるとかどうだ?」

 昭和のテレビをはじめとした家電を思い出して、冗談まじりで言ってみたらハイエルフが本当にやろうとしたので慌てて止めた。彼女たちの力でチョップなんてしてもしこわれたりしたら取り返しがつかない。

 とりあえず俺がみるかぎり、水瓶そのものに傷が付いたりとかは無いな。抱えて貰って中を覗きこんでみても特に何もみつからない。

 さて、どうしたものか。

「使徒様、ただいま狩りから戻りました! あれ、どうなさったのですか?」

 いい考えが浮かばずにウンウン唸っていたところに森チームが帰ってきたので、水瓶の件を伝えてみる。

「⋯⋯この水瓶、どうやら巨大な魔石を削り出して作られた物のようです。とすると、魔石の魔力が尽きかけているのかもしれません」

「魔石?」

「ご存知ありませんでしたか? 普通の動物と違い、魔物には魔石が体内にあるのです。冒険者たちは魔物を狩ってギルドに魔石を売り、それを加工して様々なことに役立てています。もっとも、ここまで大きな魔石は見たことがありませんが」

 言われてみれば、ダチョウズ⋯⋯シムルグや熊、雄羊にもそんな物があったような気がするな。【料理の鉄人】の鑑定だと食用不可としか分からなかったから捨てていたが。

 それを聞いたハイエルフのひとりがもったいないと呟いたので雄羊の魔石はまだ解体場にあるはずだと言うと慌てて走って行った。

「で、これが本当に魔石から出来てるなら魔力を補充すれば元通りになるのか?」

「低ランクの魔石なら使い捨てですが、高ランクの魔石なら再利用も可能です。この水瓶の魔石は低く見積もってもSランク⋯⋯いえ、SSランクはあるでしょうから補充は出来ると思いますが⋯⋯」

「アシェラたちにはできない?」

 悔しそうな顔をして俯くアシェラ。別にアシェラのせいじゃないんだから気しなくていいとフォローしておく。

 アシェラたちの力量が低いとかそういうわけではなく、単純に相性の問題らしい。

 火の魔石として使われた魔石には火属性が得意な魔術師でないと補充は出来ない。水属性の魔石もまた、水が得意な魔術師でなければ難しいそうだ。

 ハイエルフは種族として風属性が得意で、アシェラは風以外には火と闇を操ることができる。

 他のハイエルフも火や土属性を持っている者はいるが、水属性持ちはいないそうだ。

 つまり、現状打つ手なし。とはいえ、水がこのまま減っていくのは困るからなんとかしないといけない。

「「にゃおん!!」」

「ん?」

 いつの間にか調理場に入ってきていたウィップとパイチェの声に目を向けると、任せろといわんばかりに自信満々に尻尾を振っている。

 フルスタはキョトンとした顔で両親と俺の顔を見て不思議そうな表情をしていた。
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