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料理の達人と万能包丁

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 何はともあれ調理場へ。

 まず、水は大丈夫そうだ。

 水道こそ無いけれど、男性の像がかついだ水瓶から綺麗な水が豊富に流れ出ている。

 意味が分からない人は水瓶座をイメージして欲しい。

 水を受ける部分には、魚型の排水口があり、屋敷の外へ流れているみたいだ。

 この水は飲んでも問題無いというのが直感的に理解できる。【料理の鉄人】のおかげかな?

 空のツボに水を汲んで、とりあえず調理用水は確保。

 問題があるのは食材と調味料。

 塩は麻袋に入れられた物が数袋分あるからしばらくは大丈夫だろう。

 油はオリーブ油と菜種油、胡麻油となぜか3種類。

 ただ、問題は食材だな。探し回って見つかったのは小麦粉推定50キロと大麦が10キロ程のみ。

 いちおう【料理の鉄人】発動と念じて食材をチェック。

 問題無し。むしろ高品質。

 調理器具は、鉄の鍋やフライパン、土鍋、木のまな板などけっこういろいろと揃っている。

 かまどやオーブンも大きい物があるし、薪や炭も結構な量がある。

 火を起こせるか心配だったけど、昔キャンプした時に使ったことのある火打ち石に似た道具を見つけたからなんとかなりそうだ。

 あの爺さんの料理好きは本物だったみたいだな。ここまであるなら、せめて食材をもうちょっと⋯⋯。

 いや、別荘って言っていたしそんなに頻繁に来るわけでもないだろうから、これだけあっただけでもありがたいと思わないとだめか。

 いよいよ表の探索。

 おっと、その前に今夜の夕飯の準備をしておこう。

 といっても材料が無いので作れるものは限られる。

 うどんを作ろう。

 小麦粉に塩水を加えながらよくこねる。だいたい耳たぶくらいに固さになるように力を入れてこね続ける。

 塩水の濃度や小麦粉に加える量は俺の感覚。【料理の鉄人】を信じることにするけど、こねあがったものを見る限りでは問題は無さそうだ。

 普通はこの後は袋に入れてしばらく寝かせるんだけどさすがにビニール袋は見当たらない。

 仕方ないので皮の袋に入れておく。うまくいってくれることを信じよう。

 これでうどん生地の準備はひとまず中断して外に出た。

 森まではかなりの距離があるので、食べられそうな野草が無いか探しながら歩く。

 ツクシやフキノトウ、ヨモギ等の春頃の野草がそれなりの量と、ノビルやユリ根、長ネギが少々採れた。

 採れた野草類の種類や量から察するに、地球でいう3月くらいなのかな。

 野草を素揚げや唐揚げにしたり出来るし何よりネギがありがたい。俺はうどんにはネギはかかせない派だ。

 うどんに合うものといえば、他には生姜。

 これだけいろいろとあるんだから生姜もあるんじゃないかと思って少し探したけど、食べられそうな物は見つからなかった。新生姜が出るのは11月くらいだから、さすがに今の時期にはないみたいだ。残念。

 他にも見覚えのある食べ物はいくつかあったけど、時季外れな物が多くて特に収穫できた物は無かった。

 あとは森まで行けば木の実や果実が何か取れるかもしれない。

 到着。

 屋敷はもう小さくしか見えなくなっているから、奥には入って行かないように野原から眺めるくらいにしておく。

 しばらくブラブラしてみたけど食べられそうな物は何も見つからなかった。

 奥に行けば何かしらあるのかもしれないけど、歩きすぎて足も痛くなってきたしお腹も空いたので今日はこれくらいにしよう。

 そう思った時、1本の木に鳥が止まっているのを見つけた。

 ウズラに似ているけど、大きさはダチョウなみ。初めて見る鳥だ。勝手にダチョウズラと命名。

 そんな大きさの鳥が止まれる木の幹も不思議だけど、
 今は気にしないことにする。

 俺には気付いていないみたいでクチバシと足を器用に使って毛繕いしている。

 こちらに来てから初めての生き物だけど、空腹の俺にはご馳走にしか見えない。

【料理の鉄人】で食べられる鳥であることは確定。

 次に【万能包丁】を取り出し、形を投げナイフ型に変形させる。

 ダチョウズラまでの距離はかなりあるにも関わらず、不思議と外す気がしない。

 まな板の鯉ならぬ、まな板のダチョウズラとしか感じない。

 投げたナイフは一直線に飛んで鳥の首を落とした。

 拾いあげてみると、首は俺の腕よりも太く、骨も手首くらいの太さがある。

【料理の鉄人】と【万能包丁】が合わさると、これだけ簡単に食材を確保できることが分かったのも成果だな。

 さて、首が落とされているのでうまい具合に血抜きが出来るなと思うと同時に、前の人生を含めて初めて自分で獲物を仕留めたことに気がついた。

 多少の罪悪感もあるけど、俺も50年生きた身だ。

 人や動物の生き死にの場面にも何度も立ち会ってきたし、人間は他の命を食べないと生きていけないという原罪も理解しているつもりだ。

 これから何度も生きるために狩りをすることになるだろうけど、いただきますの気持ちだけは忘れないようにしよう。
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