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日の出ずる異世界転生
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俺は日野出弦いずる。
東京のとある有名ホテルのレストランで料理の修行を積み、40歳になるのを機に独立。
厳しい飲食業界の中でオーナーシェフとして孤軍奮闘すること10年。
苦労はしたものの、いいお客様に恵まれてなんとかやってこれた。
しかしガムシャラにやりすぎたのだろうか?
今日は50歳の誕生日と開店10周年のはずだったのに、どうやら過労で死んでしまったらしい。
気が付くと、暖炉がパチパチ音をたてるオシャレなログハウスの中にいた。
そして、目の前でお茶を飲んでいるのが神様という存在だというのはなんとなく理解できる。できるけど、どう見ても開店以来贔屓にしてくれていた常連の爺さんだな。ツケ払いがやたらと多かったっけ。
「ほっほっ。気がついたようじゃな」
「あんた神様だったのか。この10年ずっと老けないからおかしいとは思ってたんだ」
「うむ。たまたま遊びに下界に下りた時に食べたお前さんの料理がえらく気に入っての。ついつい通ってしまった」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。もう食べてもらえないのが残念だ」
グランドオープン直後のピークも過ぎて、店が落ち着いてきた頃にふらりとやってきた爺さん。
さんざん料理にダメ出しされて悔しい思いをしたけど、そのおかげで俺の料理の世界の幅が広がったから、ある意味で恩人だ。
「わしもじゃよ。それでな、お前さんの店には世話になったしツケもたまっておったからのう。礼と詫びを兼ねて、新しい世界に転生⋯⋯いや、転移させてやろうと思ってな」
「転生だ転移だって、今流行ってるやつか。バイトの子がはまってるらしくて力説してくれたっけな。で、それはありがたいけど俺はそこで何かしたりしないといけなかったりするのか?」
「そんなものはないわい。好きなように生きてくれたら構わん。まあ敢えて言うなら、あっちの世界の料理文化をなんとか発展させてくれたら嬉しいかのう」
ほっほっと優しく笑いながら髭を撫でる様子からは、俺を騙そうとか利用しようとかそういうものは感じられないな。
「そうか。それじゃあさっそく頼む」
「まあ少し待たんかい。ツケの利子代わりに、お前さんに2つチートをやろう。何か希望はあるかの?」
驚いた。いや、耳を疑った。
バイトの子の話を聞いた感じだと、このチートってやつはお金を出せば手に入るようなものじゃなかったはずだ。まさにプライスレス。
そうなると俺が欲しいのはあれだな。
「それなら、料理の知識が欲しいな。地球の料理と新しい世界の素材の知識な。新しい世界の方は、料理方法は自分でいろいろと試したいから捌き方や毒の有無が分かればいい。もうひとつは、よく切れる包丁を。手に馴染むやつをよろしく」
「お前さんらしいのう。ならば知識については【料理の鉄人】スキルがええかのう。素材の仕留め方から捌き方、注意点まで直感的に分かるスキルじゃ」
「知らない素材ばかりだろうから助かるよ」
「包丁は【万能包丁】が良かろう」
「ただの出刃じゃないか。しょぼくないか?」
「そんなこと無いぞい。ほれ、手に持って捌く素材をイメージしてみなさい」
「こうか? お、おお? 凄いなこれは」
爺さん⋯⋯いや、神様から渡された包丁は、イメージに合わせて出刃から柳刃、タコ引き、フグ引きと姿を変えていく。なるほど、確かにこれなら【万能包丁】の名に恥じない。
「マグロの解体はもちろん、魔獣や竜も解体できるからの。お前さん専用の包丁じゃから無くしてもすぐ手元に戻ってくるし、念じれば出し入れも自由じゃ」
魔獣や竜がいるのか⋯⋯。まあ普通に生活していればそんなものに関わることもないよな。
「本当にいいのか? ツケの支払いにしては高すぎるんじゃ?」
「それだけワシはお前さんの店が好きだったということじゃよ。さて、そろそろ時間じゃな。準備はいいかの?」
「ひとつだけ聞きたい。俺の店はどうなる?」
俺の人生の全てが詰まった店だ。やはり気になる。
「お前さんの弟子がおったじゃろ。奴が店を継ぐ予定じゃ」
「ああ、あいつなら任せても大丈夫だな。⋯⋯たまに様子を見に行ってくれると助かる」
「うむ、引き受けたぞい。他にはないか?」
「いつか今までにない究極の料理ができたら、俺の料理も食べに来てくれ」
「それはもちろんじゃよ」
「なら、もう大丈夫だ。送ってくれ」
店もあいつが続けてくれるみたいだし、家族もいない俺にはもう心残りは無い。いや、家族が出来なかったこと自体が心残りではあるのか。
「お前さんの身体は若返らせておくからの。わしの別荘をやるから、まずはそこを拠点にするといいじゃろう。ある物は好きにして構わんぞい。それと、今度は料理ひと筋では無く家庭を持つのもいいもんじゃよ。それじゃ、達者でな」
この爺さん、俺の心をよみやがった。ニヤニヤしてやがるし間違いないな。
爺さんの言葉が終わると同時に身体が光に包まれ、何も見えなくなる。
目が見えてくると、だだっ広い部屋の中心に立っていた。
長いこと使っていなかったんだろう。やや薄汚れた感のある、いつかテレビで見た西洋の貴族の屋敷という感じだ。
まずはボディチェック。
鏡は見当たらないけど身体の張りやキレの感じだと20歳くらいだろうか。
【万能包丁】も出し入れしてみる。問題なし。
服装は生前に着ていた調理人の服では無く、やたらとヒラヒラの付いた貴族が好んで着そうな派手な服。
正直似合わないと思うし、動きにくいから早く着替えたい。
この服を売れば普通の服なら何着かは買えるかと思ったけど、せっかくの神の爺さんからのプレゼントだしな。簡単に売るわけにもいかないか。
これからどうするか。
まずはこの建物のチェックと、食べ物と水の確保からするとしよう。
東京のとある有名ホテルのレストランで料理の修行を積み、40歳になるのを機に独立。
厳しい飲食業界の中でオーナーシェフとして孤軍奮闘すること10年。
苦労はしたものの、いいお客様に恵まれてなんとかやってこれた。
しかしガムシャラにやりすぎたのだろうか?
今日は50歳の誕生日と開店10周年のはずだったのに、どうやら過労で死んでしまったらしい。
気が付くと、暖炉がパチパチ音をたてるオシャレなログハウスの中にいた。
そして、目の前でお茶を飲んでいるのが神様という存在だというのはなんとなく理解できる。できるけど、どう見ても開店以来贔屓にしてくれていた常連の爺さんだな。ツケ払いがやたらと多かったっけ。
「ほっほっ。気がついたようじゃな」
「あんた神様だったのか。この10年ずっと老けないからおかしいとは思ってたんだ」
「うむ。たまたま遊びに下界に下りた時に食べたお前さんの料理がえらく気に入っての。ついつい通ってしまった」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。もう食べてもらえないのが残念だ」
グランドオープン直後のピークも過ぎて、店が落ち着いてきた頃にふらりとやってきた爺さん。
さんざん料理にダメ出しされて悔しい思いをしたけど、そのおかげで俺の料理の世界の幅が広がったから、ある意味で恩人だ。
「わしもじゃよ。それでな、お前さんの店には世話になったしツケもたまっておったからのう。礼と詫びを兼ねて、新しい世界に転生⋯⋯いや、転移させてやろうと思ってな」
「転生だ転移だって、今流行ってるやつか。バイトの子がはまってるらしくて力説してくれたっけな。で、それはありがたいけど俺はそこで何かしたりしないといけなかったりするのか?」
「そんなものはないわい。好きなように生きてくれたら構わん。まあ敢えて言うなら、あっちの世界の料理文化をなんとか発展させてくれたら嬉しいかのう」
ほっほっと優しく笑いながら髭を撫でる様子からは、俺を騙そうとか利用しようとかそういうものは感じられないな。
「そうか。それじゃあさっそく頼む」
「まあ少し待たんかい。ツケの利子代わりに、お前さんに2つチートをやろう。何か希望はあるかの?」
驚いた。いや、耳を疑った。
バイトの子の話を聞いた感じだと、このチートってやつはお金を出せば手に入るようなものじゃなかったはずだ。まさにプライスレス。
そうなると俺が欲しいのはあれだな。
「それなら、料理の知識が欲しいな。地球の料理と新しい世界の素材の知識な。新しい世界の方は、料理方法は自分でいろいろと試したいから捌き方や毒の有無が分かればいい。もうひとつは、よく切れる包丁を。手に馴染むやつをよろしく」
「お前さんらしいのう。ならば知識については【料理の鉄人】スキルがええかのう。素材の仕留め方から捌き方、注意点まで直感的に分かるスキルじゃ」
「知らない素材ばかりだろうから助かるよ」
「包丁は【万能包丁】が良かろう」
「ただの出刃じゃないか。しょぼくないか?」
「そんなこと無いぞい。ほれ、手に持って捌く素材をイメージしてみなさい」
「こうか? お、おお? 凄いなこれは」
爺さん⋯⋯いや、神様から渡された包丁は、イメージに合わせて出刃から柳刃、タコ引き、フグ引きと姿を変えていく。なるほど、確かにこれなら【万能包丁】の名に恥じない。
「マグロの解体はもちろん、魔獣や竜も解体できるからの。お前さん専用の包丁じゃから無くしてもすぐ手元に戻ってくるし、念じれば出し入れも自由じゃ」
魔獣や竜がいるのか⋯⋯。まあ普通に生活していればそんなものに関わることもないよな。
「本当にいいのか? ツケの支払いにしては高すぎるんじゃ?」
「それだけワシはお前さんの店が好きだったということじゃよ。さて、そろそろ時間じゃな。準備はいいかの?」
「ひとつだけ聞きたい。俺の店はどうなる?」
俺の人生の全てが詰まった店だ。やはり気になる。
「お前さんの弟子がおったじゃろ。奴が店を継ぐ予定じゃ」
「ああ、あいつなら任せても大丈夫だな。⋯⋯たまに様子を見に行ってくれると助かる」
「うむ、引き受けたぞい。他にはないか?」
「いつか今までにない究極の料理ができたら、俺の料理も食べに来てくれ」
「それはもちろんじゃよ」
「なら、もう大丈夫だ。送ってくれ」
店もあいつが続けてくれるみたいだし、家族もいない俺にはもう心残りは無い。いや、家族が出来なかったこと自体が心残りではあるのか。
「お前さんの身体は若返らせておくからの。わしの別荘をやるから、まずはそこを拠点にするといいじゃろう。ある物は好きにして構わんぞい。それと、今度は料理ひと筋では無く家庭を持つのもいいもんじゃよ。それじゃ、達者でな」
この爺さん、俺の心をよみやがった。ニヤニヤしてやがるし間違いないな。
爺さんの言葉が終わると同時に身体が光に包まれ、何も見えなくなる。
目が見えてくると、だだっ広い部屋の中心に立っていた。
長いこと使っていなかったんだろう。やや薄汚れた感のある、いつかテレビで見た西洋の貴族の屋敷という感じだ。
まずはボディチェック。
鏡は見当たらないけど身体の張りやキレの感じだと20歳くらいだろうか。
【万能包丁】も出し入れしてみる。問題なし。
服装は生前に着ていた調理人の服では無く、やたらとヒラヒラの付いた貴族が好んで着そうな派手な服。
正直似合わないと思うし、動きにくいから早く着替えたい。
この服を売れば普通の服なら何着かは買えるかと思ったけど、せっかくの神の爺さんからのプレゼントだしな。簡単に売るわけにもいかないか。
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