異世界実況ヒカリチャンネル

クレール・クール

文字の大きさ
上 下
28 / 32

オークキング

しおりを挟む
「静かだな」

 タックが砦の惨状を伝え応援を呼ぶために、ひとり馬に乗ってチャッチャカレまで戻ることになった。

 ひとりで大丈夫かと思ったが、2人乗りだと遅くなるし馬を2頭とも使うのもどうかということで、任せることにした。

 キャスカの死体は砦の中と周囲のは見当たらなかった。

 ということは、連れ去られた可能性が高い。

 オークに連れていかれた若い女がどうなるか。

 考えるだけで虫唾が走る。

 しかし、応援部隊を連れてタックが戻ってくるまでの間、オレたちがやるべきことは砦を見張ること。

 木影に隠れて、何か異変があればその情報を応援部隊に伝えること。

 それが、Eランク冒険者であるオレたちがやるべきこと。一刻もはやくオークたちのあとを追うべきだと気勢をあげたかけたオレをタックとミリゼットがなだめてくれた。

 あたりには人はもちろん魔物や動物もおらず、オレたち3人の息づかい以外に聞こえてくるのは風に揺れる草の音と鳥の鳴き声だけの、静かな時間が過ぎていく。

 数時間も経っただろうか。そろそろタックがッチャッチャカレに到着したんじゃないかと思えるころ

「オーク……それにハイオークだ。3匹砦の中に入っていくようだ」

 ミリゼットの声に目を凝らすと、砦の裏口側からオークたちが砦に入っていくのが見えた。

 オークとハイオークの違いは力の強さの他に知力の高さも挙げられる。

 単純に力押しで殴ってくるオークと違い、ハイオークは倒した商人や冒険者の武器を使いこなし、個体によっては魔法を使ってくるやつすらいる。

「何しにきたんだ? もう砦の中には誰もいなかっただろう」

「おそらくだが、武器や食料の確保だろう。盗賊どもの備品を確保するために戻ってきたんだろうな」

「くそ。あいつらそんな知恵まであるのか」

「ゴブリンでもそのくらいはやるさ。それより、奴らが出てきたら後をつけるぞ。準備しておけ」

 言うが早いか、装備品や手荷物をチェックしはじめるミリゼット。

「奴らの後を追えば、きっとやつらの巣まで案内してくれるはずだろう。その情報を応援部隊に伝えることができれば、きっと何かの役に立つ」

 メルルもすでに準備を始めているのを見て、オレも慌ててその後に続いた。

「出てきた。やはり食料を持っているな。つけるぞ」

 夜目が利くミリゼットを先頭に、オークたちに見つからないように後を追う。

 風魔法で風の流れを制御して、匂いで気付かれることもないように細心の注意を払う。

 チャッチャカレ西の街道とは違って道が整備されていないから歩きにくくてしかたがない。

 その時ミリゼットが足を止め、何かを確認したかと思うと急に走り出しオークとの距離を一気に縮める。

『グガッ!?』

 オークもミリゼットの気配に気が付くが、身構える前に3体とも首を刎ねられ即死した。

「ミリゼット!?」

 オレとメルルも走り寄ると、崖下を指さした。

「あそこに洞窟があるだろう。見張りもいるようだし、あそこがオークの巣で間違いない。確認できたし、さっきの場所まで戻ろう……な……に……?」

 驚いた表情でオレたちのさらに後ろに視線を向けたまま固まるミリゼット。

 振り返ると、そこには今倒したハイオークよりもさらに巨大なオークがいた。

「オークキングだ! ヒカリ、メルル、逃げるぞ!」

 ミリゼットの叫びが終わる前に、オークキングが手にしていた戦斧を振り回す。

「ぐはっ!」

 オークキングの戦斧はとっさに抜きかけたオレの剣を折り、そのままオレを吹き飛ばした。

 折られた剣が多少なりとも威力を殺してくれたのかなんとかオレの上半身と下半身が生き別れになることは避けられたようだ。それでも肺にかなりのダメージを喰らったのか、呼吸がまともにできない。

 呼吸? それだ!

「【ウォーターボール】!」

 オークキングの顔を飲み込むような形で水球をつくる。
 苦しいだろう? お返しだ!

 このまま水球を維持して窒息死させてやる。そう思ったのだが

『ブルゥウァァアアアア!』

 オークキングがその周辺に風を巻き起こし、水球を弾き飛ばした。

 どうやら、そう簡単にはいかないらしい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...