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今度こそ依頼開始!
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「すいません、少しよろしいでしょうか?」
彼女に声をかけるのはメルルに頼んだ。
落ち込んで半泣きの女性に声をかけるのは、男であるオレよりはメルルのほうがいいと思ったからだ。
「⋯⋯っく⋯⋯な⋯⋯なんだろうか? 貴女も見ていただろう⋯⋯? 出来ればしばらくひとりにしてもらいたいのだが⋯⋯?」
「はい、失礼ながら先程のやり取りは見させていただきました。その上で私たちのパーティーにお誘いしたいのです」
「そのネックレスは⋯駆け出しのFランクか。しかし駆け出しとはいえ、話を聞いていたならば分かるだろう? わたしは魔法が使えぬ。いや、魔力そのものがないから魔法石の道具すら使えぬのだ。
その上この怪我では武器を振るうことも出来ぬ。
すまないが、先程の皆の言うように役立たずにしかなれないさ」
「ああ、とりあえずオレたちの話だけでも聞いてから考えてみてくれないか?」
「其方がパーティーメンバーか?」
「ああ。オレはヒカリ。で、こっちはメルルだ。よろしくな」
「そういえばまだ名乗っていなかったな。わたしはミリゼット。見ての通りダークエルフだ。魔力を持たない落ちこぼれの、な」
「ああ、よろしく。とりあえずあっちで話さないか?」
「⋯⋯分かった」
ギルド入口入ってすぐのロビーで話しているオレたちは好奇の視線を集めてしまっているから、さすがに恥ずかしい。
入って左奥のほうには飲食スペースが用意されているので、そっちに移動する。
ここは依頼者との打ち合わせに使われたり、依頼達成後の宴会に使われたりと、だれでも利用できる場所になっているのだ。
席に座り、果実水を3つ注文して、あらためてダークエルフのミリゼットに向かい合う。
「じゃあ、あらためて言うよ。オレとメルルと一緒にパーティーを組んで欲しい」
「誘いはありがたい。今のわたしはパーティーのランクを気にしていられる立場ではないからな。しかし、現実問題として武器もまともに扱えぬから役に立つどころか足手まといにしかならぬぞ?」
「それは大丈夫。オレもメルルも魔法は得意なほうだから、魔法が必要な場面ではオレたちに任せてくれればいい」
「私たちが今必要としているのは、初心者のわたし達が見落としそうなことをフォローしてくださるベテラン冒険者の方なんですよ」
「それと、獲物の解体もだな。恥ずかしい話だけどオレたちはそっち方面が全然だめなんだ。武器は使えなくても、ナイフで解体くらいは出来るんじゃないか?」
「確かにそれぐらいなら今のわたしでも出来るだろうが、いいのか? それだと報酬は3等分だとしても貰いすぎる形になってしまうのだが」
「いや、当面の間、報酬はミリゼットが5割――半分とってくれ」
「は!?」
「冒険者が事故に遭いやすいのは最初期と、数ヶ月後の慣れてきた頃だろう? そこを安全に経験を積めると思えばたいした金額ではないさ。パワーレベリングに近い感じかな」
「パワーレベリングというのは分からないが、貴方たちがかなり慎重な考えだというのは理解した。しかし、随分珍しい考え方をする御仁なのだな」
「わたし達は幸い今のところお金にはまだ若干余裕がありますしね。経験を積むというのももちろんですが、ミリゼットさんは顔立ちもスタイルも抜群ですしこれなら視聴者さんも喜んでくださるかと――」
「試聴者とは、なんだのことだろうか?」
「あ、いやまあそれは置いといて」
しかし、どうやって動画のことは説明すればいいんだ?
勝手に投稿するのは盗撮みたいで気が引ける。というより、絶対にやりたくないし、やらない。
ちなみに、撮影方法は別にカメラを回したりしているわけではない。
オレやメルルをいろいろなアングルから撮影しているのは、ズバリこのエランディールという世界そのものだ。
地球からの転生者の減少による文明や文化の停滞を憂い始めたエランディールという生き物が女神メルトリーゼに協力していると思ってくれたらいいと思う。
地球をガイアという生き物だとする考え方の発展系みたいなものだ。
だから別に撮影自体はミリゼットには気付かれないが、そういう問題ではないのだ。
「ミリゼットには、承認欲求ってあるか?」
「承認欲求?」
「簡単に説明すれば、自分の生き様を他の人に認めてもらいたい気持ちといったところかな。頑張ったことや何かを成し遂げたことを誰かに褒められたりしたら、嬉しくないか?」
「それは確かに嬉しいが、冒険者なら活躍すればギルドのランクも上がるし活躍が貴族の耳に入れば指名依頼を受けることもあるだろう?貴方⋯⋯ヒカリ殿が言っているのはそういうことだな?」
「そう。その頑張りをもっといろいろな人に見てもらえるとしたら?ギルドや街、国どころか、それこそ世界中の人に応援される⋯⋯どうだ?」
「ふむ。少し恥ずかしいような気もするが、名声が広い範囲に広がるというのは冒険者になったからには悪くないな。しかし、そんなことが可能なのか?」
「オレとメルルなら可能だ。オレたちが活躍すればするほどオレたちを応援してくれる人が増えて、声援を送ってくれる人も増える。その声援のメッセージを聞いてみたければ、オレたちの仲間になって欲しい」
実際にはアンチコメもあるだろうし、ミリゼットの見た目ならセクハラ紛いのコメントもつくかもしれない。だが、そんなものはオレが伝えなければいいだけだからな。
というか、アンチコメはともかくセクハラコメはすぐ削除してブロックするからそこのとこはよろしくな?
「どうでしょうか? ミリゼットさん」
メルルの問いかけに、ミリゼットは首肯で返した。
「分かった。よく分からないことは多いがわたしにとって悪い条件ではなさそうだ。とりあえず治療費が貯まるまで、アドバイスや解体、荷物持ちなど今のわたしに出来ることはなんでもやらせてもらおう。よろしく頼むヒカリ殿、メルル殿」
「よろしくお願いしますミリゼットさん」
「ありがとう。よろしくミリゼット」
ミリゼットとメルルが握手をし、次にオレとミリゼットが握手をしようとして――
「そういえばミリゼットの腕の怪我ってどんなものなんだ?」
「ああ、戦闘中にマングースネークに噛まれてしまってな。振り払おうとしたら逆に牙が食い込んでしまい、利き腕の神経をやられた上に毒までもらって動かなくなってしまった。教会の治癒術士に見てもらえば治るとは思うのだが、治療費がかなり高くてな。このまま仕事が無くなれば生活すらままならなくなるところだった」
「なるほど。悪いが、少し腕を見せてもらえるか?」
「構わないぞ。ほら」
ミリゼットの右腕、肘のあたりにヘビの牙に噛まれたらしき傷痕があり、その周辺がどす黒く変色してしまっている。見るからに痛そうだ。
「痛むだろう? 治せるなら早くなおしたほうがいいよな?」
「それはそうだが、金額がな⋯⋯ははは⋯⋯は⋯⋯?!」
「【リカバリー】」
ミリゼットの右腕を白金色の光が包み込み、傷痕を消し去っていく。
このひと月、慣れない異国どころか異世界の食事で腹を下したり小さな怪我をしたりするたびにメルルから教わったこの魔法で何度も自分自身を治療したおかげで、この魔法は完全に自分のものにしている。
「腕の具合はどうですか?」
メルルに聞かれたミリゼットは、腕をグルグルまわしたり手をグーパーさせたりして確かめる。
「な、治っている⋯⋯。マングースネークの傷が、跡形もなく⋯⋯」
「これで治療費を貯める必要はなくなったけど、パーティーの契約は治療費分の金額が貯まるまでだからな? それまではよろしく頼むぞ?」
「ああ⋯⋯ああ、勿論だ。先の契約内容に加えて、斥候や前衛役もわたしに任せてくれ! いや、それだけでは足りぬな。なんなら夜の伽も⋯⋯いや、ヒカリ殿にはメルル殿がいるか。なら、わたしはどうやってこの感謝の気持ちを伝えればいいのだろうか⋯⋯」
「メルルとはそんな関係じゃないし、別に何もしなくていいから。報酬の取り分もさっきのままでOK。あえていえば、依頼遂行中はできるだけ笑顔でいてくれるといいかな? そのほうが試聴者さん受けが、いいからさ」
「ヒカリ殿、其方という人は⋯⋯。分かった。このミリゼット、ヒカリ殿とメルル殿の前では常な笑顔を絶やさずに任務を務めさせてもらおう。あらためて、本当にありがとう」
ここまで感謝されると逆になんだか恥ずかしくなる。
照れ隠しのように依頼が貼り付けてある掲示板から適当に依頼書を取り、受け付けで正式に受注した。
オレたちの初依頼内容は、Fランク任務、ゴブリン討伐3体だ!
彼女に声をかけるのはメルルに頼んだ。
落ち込んで半泣きの女性に声をかけるのは、男であるオレよりはメルルのほうがいいと思ったからだ。
「⋯⋯っく⋯⋯な⋯⋯なんだろうか? 貴女も見ていただろう⋯⋯? 出来ればしばらくひとりにしてもらいたいのだが⋯⋯?」
「はい、失礼ながら先程のやり取りは見させていただきました。その上で私たちのパーティーにお誘いしたいのです」
「そのネックレスは⋯駆け出しのFランクか。しかし駆け出しとはいえ、話を聞いていたならば分かるだろう? わたしは魔法が使えぬ。いや、魔力そのものがないから魔法石の道具すら使えぬのだ。
その上この怪我では武器を振るうことも出来ぬ。
すまないが、先程の皆の言うように役立たずにしかなれないさ」
「ああ、とりあえずオレたちの話だけでも聞いてから考えてみてくれないか?」
「其方がパーティーメンバーか?」
「ああ。オレはヒカリ。で、こっちはメルルだ。よろしくな」
「そういえばまだ名乗っていなかったな。わたしはミリゼット。見ての通りダークエルフだ。魔力を持たない落ちこぼれの、な」
「ああ、よろしく。とりあえずあっちで話さないか?」
「⋯⋯分かった」
ギルド入口入ってすぐのロビーで話しているオレたちは好奇の視線を集めてしまっているから、さすがに恥ずかしい。
入って左奥のほうには飲食スペースが用意されているので、そっちに移動する。
ここは依頼者との打ち合わせに使われたり、依頼達成後の宴会に使われたりと、だれでも利用できる場所になっているのだ。
席に座り、果実水を3つ注文して、あらためてダークエルフのミリゼットに向かい合う。
「じゃあ、あらためて言うよ。オレとメルルと一緒にパーティーを組んで欲しい」
「誘いはありがたい。今のわたしはパーティーのランクを気にしていられる立場ではないからな。しかし、現実問題として武器もまともに扱えぬから役に立つどころか足手まといにしかならぬぞ?」
「それは大丈夫。オレもメルルも魔法は得意なほうだから、魔法が必要な場面ではオレたちに任せてくれればいい」
「私たちが今必要としているのは、初心者のわたし達が見落としそうなことをフォローしてくださるベテラン冒険者の方なんですよ」
「それと、獲物の解体もだな。恥ずかしい話だけどオレたちはそっち方面が全然だめなんだ。武器は使えなくても、ナイフで解体くらいは出来るんじゃないか?」
「確かにそれぐらいなら今のわたしでも出来るだろうが、いいのか? それだと報酬は3等分だとしても貰いすぎる形になってしまうのだが」
「いや、当面の間、報酬はミリゼットが5割――半分とってくれ」
「は!?」
「冒険者が事故に遭いやすいのは最初期と、数ヶ月後の慣れてきた頃だろう? そこを安全に経験を積めると思えばたいした金額ではないさ。パワーレベリングに近い感じかな」
「パワーレベリングというのは分からないが、貴方たちがかなり慎重な考えだというのは理解した。しかし、随分珍しい考え方をする御仁なのだな」
「わたし達は幸い今のところお金にはまだ若干余裕がありますしね。経験を積むというのももちろんですが、ミリゼットさんは顔立ちもスタイルも抜群ですしこれなら視聴者さんも喜んでくださるかと――」
「試聴者とは、なんだのことだろうか?」
「あ、いやまあそれは置いといて」
しかし、どうやって動画のことは説明すればいいんだ?
勝手に投稿するのは盗撮みたいで気が引ける。というより、絶対にやりたくないし、やらない。
ちなみに、撮影方法は別にカメラを回したりしているわけではない。
オレやメルルをいろいろなアングルから撮影しているのは、ズバリこのエランディールという世界そのものだ。
地球からの転生者の減少による文明や文化の停滞を憂い始めたエランディールという生き物が女神メルトリーゼに協力していると思ってくれたらいいと思う。
地球をガイアという生き物だとする考え方の発展系みたいなものだ。
だから別に撮影自体はミリゼットには気付かれないが、そういう問題ではないのだ。
「ミリゼットには、承認欲求ってあるか?」
「承認欲求?」
「簡単に説明すれば、自分の生き様を他の人に認めてもらいたい気持ちといったところかな。頑張ったことや何かを成し遂げたことを誰かに褒められたりしたら、嬉しくないか?」
「それは確かに嬉しいが、冒険者なら活躍すればギルドのランクも上がるし活躍が貴族の耳に入れば指名依頼を受けることもあるだろう?貴方⋯⋯ヒカリ殿が言っているのはそういうことだな?」
「そう。その頑張りをもっといろいろな人に見てもらえるとしたら?ギルドや街、国どころか、それこそ世界中の人に応援される⋯⋯どうだ?」
「ふむ。少し恥ずかしいような気もするが、名声が広い範囲に広がるというのは冒険者になったからには悪くないな。しかし、そんなことが可能なのか?」
「オレとメルルなら可能だ。オレたちが活躍すればするほどオレたちを応援してくれる人が増えて、声援を送ってくれる人も増える。その声援のメッセージを聞いてみたければ、オレたちの仲間になって欲しい」
実際にはアンチコメもあるだろうし、ミリゼットの見た目ならセクハラ紛いのコメントもつくかもしれない。だが、そんなものはオレが伝えなければいいだけだからな。
というか、アンチコメはともかくセクハラコメはすぐ削除してブロックするからそこのとこはよろしくな?
「どうでしょうか? ミリゼットさん」
メルルの問いかけに、ミリゼットは首肯で返した。
「分かった。よく分からないことは多いがわたしにとって悪い条件ではなさそうだ。とりあえず治療費が貯まるまで、アドバイスや解体、荷物持ちなど今のわたしに出来ることはなんでもやらせてもらおう。よろしく頼むヒカリ殿、メルル殿」
「よろしくお願いしますミリゼットさん」
「ありがとう。よろしくミリゼット」
ミリゼットとメルルが握手をし、次にオレとミリゼットが握手をしようとして――
「そういえばミリゼットの腕の怪我ってどんなものなんだ?」
「ああ、戦闘中にマングースネークに噛まれてしまってな。振り払おうとしたら逆に牙が食い込んでしまい、利き腕の神経をやられた上に毒までもらって動かなくなってしまった。教会の治癒術士に見てもらえば治るとは思うのだが、治療費がかなり高くてな。このまま仕事が無くなれば生活すらままならなくなるところだった」
「なるほど。悪いが、少し腕を見せてもらえるか?」
「構わないぞ。ほら」
ミリゼットの右腕、肘のあたりにヘビの牙に噛まれたらしき傷痕があり、その周辺がどす黒く変色してしまっている。見るからに痛そうだ。
「痛むだろう? 治せるなら早くなおしたほうがいいよな?」
「それはそうだが、金額がな⋯⋯ははは⋯⋯は⋯⋯?!」
「【リカバリー】」
ミリゼットの右腕を白金色の光が包み込み、傷痕を消し去っていく。
このひと月、慣れない異国どころか異世界の食事で腹を下したり小さな怪我をしたりするたびにメルルから教わったこの魔法で何度も自分自身を治療したおかげで、この魔法は完全に自分のものにしている。
「腕の具合はどうですか?」
メルルに聞かれたミリゼットは、腕をグルグルまわしたり手をグーパーさせたりして確かめる。
「な、治っている⋯⋯。マングースネークの傷が、跡形もなく⋯⋯」
「これで治療費を貯める必要はなくなったけど、パーティーの契約は治療費分の金額が貯まるまでだからな? それまではよろしく頼むぞ?」
「ああ⋯⋯ああ、勿論だ。先の契約内容に加えて、斥候や前衛役もわたしに任せてくれ! いや、それだけでは足りぬな。なんなら夜の伽も⋯⋯いや、ヒカリ殿にはメルル殿がいるか。なら、わたしはどうやってこの感謝の気持ちを伝えればいいのだろうか⋯⋯」
「メルルとはそんな関係じゃないし、別に何もしなくていいから。報酬の取り分もさっきのままでOK。あえていえば、依頼遂行中はできるだけ笑顔でいてくれるといいかな? そのほうが試聴者さん受けが、いいからさ」
「ヒカリ殿、其方という人は⋯⋯。分かった。このミリゼット、ヒカリ殿とメルル殿の前では常な笑顔を絶やさずに任務を務めさせてもらおう。あらためて、本当にありがとう」
ここまで感謝されると逆になんだか恥ずかしくなる。
照れ隠しのように依頼が貼り付けてある掲示板から適当に依頼書を取り、受け付けで正式に受注した。
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