上 下
6 / 83

テンプレ2

しおりを挟む
「き、きみ大丈夫?」

「う……うぅぅ……」

「あ、これは熱中症かなあ。すいません、ちょっと手を貸してくださーい」

 顔がほてって意識朦朧とした女の子は、典型的な熱中症の症状をしていたので、近くの人の手も借りて応急処置をしておくことにした。

 日陰になっている場所に寝かせてから、配達バッグに入れておいたタオル(安物)を数枚取り出してペットボトルの水で濡らしてよく絞ってからいおでこや脇の下、首周りを冷やしていく。足のつけ根とかもやったほうがいいらしいけど……うん、事案になりそうだからさすがにやめておこうかな。

「これ飲んですこし休めばよくなるよ」

 フードデリバリーのお供として持ち歩くために用意しておいたポカリを飲ませると、女の子は少し落ち着いたか、表情を緩ませた。

「もう少し休もうか。あ、そうだ。これも食べな。ゆっくり舐めてね」

 真夏の肉体労働者の必需品としてここ数年でいっきに広まってきた塩飴を女の子の口に含ませる。

「うん、もうピンチは脱したかな。あのーすいません、どなたかこの子の家族をご存知でしたら連絡とってもらえませんか?」

 おでこの濡らしタオルを取り替えながら日陰に移動させる時に手伝ってもらった人たちに聞いてみたのだけど、みんな目を伏せてしまう。知らないのかな? と思ったけど、どうもそんな感じじゃないかな。

 その時

「その子の家族なあ、もういないんだよ」

「え?」

 ひとりのおばちゃんが耳打ちしてきた。ちょいちょいと手招きしてきたので女の子を別の人に任せて少し離れて話を聞くことにした。

「その子のご両親とお兄ちゃんなあ、先月家が火事になって、その時に全員なあ。かわいそうにねえ」

「そんな……それじゃああの子は今ひとりで……? いや、家とかはどうしてるんだろう?」

「とりあえず今は孤児院にいるよ。だけどあと2か月で15歳になるからそうしたら孤児院は出て行かなくちゃいけない。普通ならもっと若いうちから手に職をつけて孤児院を出るときには何かしら仕事は決まっているモンなんだけど、あの子の場合はその時間すらない。だから今のうちに少しでも稼ごうとしてこの暑い中無理して辻売りしていたんだろうさ」

 おばちゃんに言われて女の子をあらためて見てみると、さっき倒れた場所に摘んだ花をいれたカゴが落ちているのが見えた。

 きっと、あの花を売るために頑張っていたんだろうな。

 俺がカゴと花を拾って女の子のほうに戻ると、彼女もちょうど意識を取り戻したところらしく、介抱を任せていた人から俺が助けたという話を聞いてペコリと頭をさげた。

「あ、あの……助けていただいてありがとうございました」

「ううん、たいしたことはしてないよ。もう大丈夫かい?

「あ、はい。もうへっちゃらです」

「ならよかった。はい、これ大事なものなんだよね」

「あ、お花……ありがとうございます」

 大事そうに花カゴを抱える女の子だけど……聞くのはちょっと悪い気もするけど……

「あの……お花、売れてるの?」

 さっき拾ってカゴに戻した時、カゴに空きは無くて売れた様子がなかったんだよなあ。熱中症になるほど長時間売り歩いていたんだろうに。

「あ、あはは……。あんまりうれてない、かな」

 やっぱりか。

 ……。

 うん、やっぱりそうだよなあ。

「俺、この町で商売を始めてみるつもりなんだけどよかったら手伝ってくれないかな? もちろん、きちんとお給料は払うよ」

 俺の言葉に

「え、ええぇぇー!?」

 女の子はたいそうびっくりしていました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平
ファンタジー
アルバイト社員として毎日汗をかいて雑用をこなす弾光広(ミッツ)は、朝の通勤電車の乗客とともに異世界に転移してしまった。だが、転移先は無人だった。 異世界は、ステータス、ジョブ、スキル、魔法があるファンタジーなゲームのような世界で、ミッツは巨大な魔物を倒すチート能力を得て大いに活躍する。前向きで気は良いけれど、ちょっとおバカなミッツは、三人の仲間とともに町を探す旅に出る。2023/3/19 タイトル変更しました『アルバイト社員!異世界チートで大暴れ!』

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...