便利なゴミ箱

とものりのり

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便利なゴミ箱

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小学校の帰り道。
僕とケンちゃんは2人で下を向いて歩いていた。
「ケンちゃん、テストどうだった?」
「僕は10点だった、タケちゃんは?」
「僕は0点だった」
2人はため息をつきながら歩いた。

ケンちゃんが
「お母さんに見せたら怒られる、おこづかいなくされちゃうかも」
と言うのを聞いて僕はこわくなった。
「どうしよう。僕はテスト捨てよっかな」
と言った。
するとケンちゃんはびっくりした。

ケンちゃんが真剣な顔で
「それはダメだよタケちゃん!怒られるだろうけど正直に見せないと!」
と言った。
僕はケンちゃんに一緒にテストを捨てると言ってもらえると思っていた。でも正しい事を言われて恥ずかしくてたまらなくなった。
「なんだよ!僕も0点じゃなくて10点だったら正直に言うよ。ケンちゃんはズルい!」
そう言うと僕は走って帰った。

僕は顔を赤くしながら
「ケンちゃんの分からずや!もう絶好だ!」
と言いながら歩いた。
家の近くまで来ると
「タケちゃんおかえり」
と隣に住むおばあちゃんに声をかけられた。
「ただいま」
と小さな声で言うと
「なんだか元気ないねぇ」
とおばあちゃんが心配そうに言う。

おばあちゃんの足元にゴミ箱が置いてあるのに気付く。
ゴミ箱の底は墨汁のように真っ黒だった。
「おばあちゃん、これ何?」
と聞くと
「これは便利なゴミ箱でねぇ、何だって捨てられるんだよ」
と言った。

おばあちゃんは石ころを拾ってゴミ箱の中に放り込んだ。
すると石ころはゴミ箱の底の黒に沈み込んだ。
「いくらだって捨てられる。これで玄関のゴミを捨ててたんだよ」
とおばあちゃんが言った。

するとおばあちゃんの家から
「リリリリリーン」
と電話の音がした。
おばあちゃんが
「このゴミ箱は危ないから手を入れたらダメだからね」
と言いながら家に入って行った。

僕はおばあちゃんと同じようにゴミ箱に石ころを放ってみた。石ころはゴミ箱の底の黒に沈み込んだ。
ランドセルから0点のテストを取り出すとくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
ゴミ箱の底の黒に沈んでいく。

「やったぞ」
と言いながらランドセルを持って立ち上がると写真が一枚地面に落ちた。
遠足に行った時にケンちゃんと2人で撮った写真だった。二人で肩を組んで撮った思い出の写真だった。
「ケンちゃんの分からずや!絶好だ」
と言うと写真をゴミ箱に捨てた。

写真がゴミ箱の底の黒に沈み込むと心がスッと軽くなった。
「あれ?何で僕は怒ってたんだっけ?」
ちょっと考えたが思い出せずに家に帰った。

部屋に戻ってベッドに寝転がってマンガを読む。
ふと部屋の壁に貼ってあるカレンダーを見ると来週の日曜日に花丸が付いている。
「来週の日曜日何かあったっけ?何か楽しみにしていた事があったような?」
いくら考えても思い出せない。

すると目からポロポロと涙が出て来た。
どうして僕は泣いているんだろう?僕は何か大事な事を忘れてる気がする。
一生懸命思い出そうとしていると隣のおばあちゃんとゴミ箱の事が頭に浮かんで来た。
僕は涙を流しながら隣のおばあちゃんに会いに行った。

隣のおばあちゃんは家の前でゴミ箱にゴミを捨てている。
「おばあちゃん、涙が止まらないんだけど」と言うとおばあちゃんは
「タケちゃん、目にゴミでも入ったのかい?」
メガネをかけて僕の目を覗き込むと
「おや?」
と言った。
おばあちゃんは真剣な顔になりゴミ箱の中を覗き込む。
「おやおやおや、タケちゃんや。あんた大事な物を捨ててしまったんだね。これから拾いに行くよ」
と言うとおばあちゃんは僕の手を握る。おばあちゃんがゴミ箱の底の黒に手を突っ込むとどんどん腕が吸い込まれていく。みるみる体も吸い込まれ僕も一緒に吸い込まれる。
「わ、わ、わ~~」

目を開けると僕はおばあちゃんと手を握って宙に浮いていた。重さが無い。上も下も無い。地面も壁も無く遠くに虹色の雲が広がっている。
所々にいろんな物が浮いている。
(絵のイメージ※コンビニ弁当の箱や割れたお皿やコップ、古い洗濯機や冷蔵庫。錆びた自転車。他にも家庭ゴミが浮いている)

僕の目からはまだ涙がポロポロ出ている。涙は宙に浮くとシャボン玉の様にフワフワと同じ方向に飛んでいく。
「タケちゃんの探し物はあっちだね」
と言うとおばあちゃんは着物の袖に手を入れると箒を取り出す。おばあちゃんと僕は箒に乗って涙を追いかける。
(絵のイメージ※ 着物の中から出したのにおばあちゃんの身長より長い箒)

涙を追いかけて飛んでいく時も色々な物が浮いている。僕がこの景色に呆気に取られているとおばあちゃんは
「ここにあるのは壊れたり飽きて捨てた物だよ。目に見える物だけじゃない。必要の無くなった記憶や忘れたい思い出もあるのさ」
と淡々と話す。
(絵のイメージ※ 恐竜の骨格標本、見た事の無い文字ので書かれた大きな本、動いていない振り子時計、本でしか見たことない様な古い車や馬車、プロペラのついた飛行機もあれば、庭付きの家が丸ごと浮いている)

涙の終着点が見えて来た。
1枚の写真を取り囲む様に沢山の涙がフワフワと浮かんでいる。
おばあちゃんが写真を手に取ると僕に見せる。
僕と知らない男の子が肩を組んで笑顔で写っている。
「タケちゃんがゴミ箱に捨てたのはこの写真と思い出だよ」
おばあちゃんから写真を受け取ると写真は強く光り出し僕は眩しくて目を閉じた。

目を開けるといつもの学校からの帰り道だった。
「あれ?おばあちゃんは?ゴミ箱は?」
目から出ていた涙も止まっている。
ランドセルを開けるとケンちゃんと写った写真が入っていた。
「さっきのは夢だったのかな?」

考えながら歩いて行くと
「タケちゃんおかえり」
とおばあちゃんから声をかけられ僕はびっくりする。おばあちゃんの足元にはゴミ箱がある。
うまく声が出せず
「ただいま」
小さな声で返すと
「なんだか元気ないねぇ」
とおばあちゃんが心配そうに言う。

ゴミ箱の中を覗くとゴミ箱の底は墨汁のように真っ黒ではなく、ちゃんと底が見える。
やっぱりさっきのは夢だったのか。
家に帰ろうとすると
「タケちゃん、忘れ物だよ」
とおばあちゃんが言うと着物の袖から紙を取り出す。
「僕の0点のテストだ!じゃあやっぱり夢じゃなかったんだ」
「ケンちゃんの事を忘れた時に涙が出たのは、ケンちゃんとの楽しい思い出を忘れたのが悲しかったからだろうね」
「うん」
「でもケンちゃんにひどい事言ったりケンカした嫌な思い出も思い出しちゃったね」
「うん。それでもケンちゃんとの思い出は忘れたくない。謝って仲直りするんだ」

僕は家に帰るとお母さんに0点のテストを見せてひどく怒られた。

次の日、僕はケンちゃんに謝った。
「ケンちゃん昨日はごめん!帰ってからやっぱりお母さんにテスト見せたんだ。すごく怒られたけど」
するとケンちゃんは
「そうなんだね。僕もお母さんにテスト見せたらすごく怒られたよ」
と笑って言った。ケンちゃんは怒ってなかったし許してくれた。本当に良かった。

日曜日。
ケンちゃんと二人で遊園地に行った。
帰りに二人で写真を撮った。
この写真も今日のケンちゃんとの思い出もずっと大切にしよう。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

四季
2023.08.06 四季

ほっこりできるストーリーで良かったです。
素敵な作品をありがとうございます。

とものりのり
2023.08.06 とものりのり

感想ありがとうございます。
最後まで読んで頂けて嬉しいです😃

解除

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