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国王

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 どんよりとした曇り空。もうすぐ夏が訪れるというのに、不吉なくらい寒い朝。私はいつものように厨房に朝食を取りに行く。その途中で、顔を隠した男とすれ違う。

「……エステル様。ウィリアム殿下より、伝令でございます」

「ここで……言えない内容なんですね。わかりました」

 私がすれ違いざまに紙を受け取った後、男は一瞬で消える。ウィリアム様は何のつもりで私にそれを伝えたのだろうか。

『国王が倒れた。出来るだけ早く謁見の間に』

「はぁ……」

 近くの燭台の炎で、受け取った紙を燃やす。聖女様の所にも、同じものが届いているだろうか。一応、国家の要人ではあるし。

 そうだった場合、割と大変なことになりそうだ。私は急いであずさの所に向かう。

「これ……」

「やっぱり届いてましたか」

「エステルさんも連れていけって。それって、そういうことなんですよね?」

「……ただのメイドにそんな権力はありませんよ?」

「ですよねぇ……。もちろん冗談です」

 朝食代わりに適当な干し肉を口に詰め込んでから正装に着替え、謁見の間に向かう。王侯貴族が揃う場に行くのは初めてだっけ。立場的に彼らと話す機会は無いだろうし、問題ないはずだ。

 部屋を出る。

 どこから流れたのだろう。限られた人にしか伝わっていないはずなのに、王宮は葬式ムードになっている。まだ死んだって決まったわけではないけれど。

「行きますよ、あずさ様」

「はい」

 謁見の間。

 とても長い机がおかれている。ウィリアム様やエル、ルーカス様は奥の方に。貴族連中は手前の方に。私たちに用意された席は、エルヴィンの隣だった。とはいっても、私は後ろで聞くのを許されているだけなのだが。

「あずさ、緊張してない?」

「……大丈夫です。エステルさんもエルヴィン様も近くにいますから」

「なら良かった。あずさはここに座っているだけでいいからね」

 ウィリアム様が上座で話し始める。この報せが入る前から、実質的なトップは彼だった。それが名実ともにそうなるだけのこと。貴族側からも特に反対の声は出なかったし、もう決まったようなものだろう。

 ウィリアムは素直に喜び、あずさは今朝倒れた国王の容態を心配している。どちらもウィリアム様が国王になることには賛成なのだろう。別に、私も反対派ではないし。

 ただ、問題はルーカス様だ。一番奥、エルヴィンの真正面に座る彼。落ち着かない様子で何度も眼鏡を触り、一部の貴族を睨んでいるように見えた。

 ルーカス派の貴族だろうか。よくみると、聖女召喚や新年の儀式の際と少し顔ぶれが違うような気がする。視線をそらしているから、ちゃんとは確認出来ないけれど。
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