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それでも、教えてくれない(sideあずさ)
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鎮魂祭が終わり、私達は王宮に戻った。エステルさんはあれから黙ったまま、何も話してくれない。その代わり、ウィリアム様がよくこの部屋に訪れるようになった。
「そんなにエステルさんと話したいなら、本人に直接言えば良いじゃないですか」
「それが出来ないから、困ってるんだよね」
墓地での一件の後、神殿に行く回数は前よりも増えた。馬車で何か聞けるかもと期待はしていたが、それも期待レベル。かもしれない、出来たら良いなのお話。
それにしても鎮魂祭の日から……いや、違う。そうだけどそうじゃない。あの別荘に着いてから、エステルさんは少し様子がおかしかった。キーとなったのは場所か時間か、それとも両方か。
どちらにしても、何かがトリガーになってエステルさんは心を閉ざしてしまった。直接的な要因は墓場の闇。あの時に呟いていた「お母様」という言葉。
「あれっ。これってもしかして、PTSD……?」
だとしたら。多分これでピースが揃った。
「なんだい、それは。エステルと関係が?」
「心的外傷後ストレス障害。極端なストレスを体験した後に発症する病気です。エステルさんにとっての極端なストレス。ここからは私の想像でしかありませんが……」
「言ってごらん」
「鎮魂祭は銀翼の王女の命日。彼女は十三で亡くなったと聞いています。もし王女様が今も生きているとすれば、今は十八歳」
エステルさんと歳が近いというのは、エルヴィン様から聞いている。これまでの振る舞いから、年下ということは無いと思う。
「そうだね。でも、王女の遺体は僕がちゃんと確認した」
「そんなの、いくらでも偽装出来ますよね?」
「確かに。二人の遺体を確認したのは、僕とその側近だけだ。だけど、僕が嘘をつくと思うかい?」
「……」
もちろん、思っている。明らかに余所行きの笑顔、でも目は笑っていない。彼女と話している時は、もっと柔らかい表情だった。
「もしかしてエステル様は……」
「あー、そうだ。君の予想通りだよ。エステルは、僕の」
間が悪いタイミングでエステルさんが入ってくる。
「……ウィリアム様?」
「ちょうど良い所に来てくれたね、僕の大切な――――」
「それ以上話したら、殿下でも許しませんので。私はただのメイド。それ以上でもそれ以外でもございません」
何もかも凍らせる笑顔。絶対零度。そろそろ夏が来るはずなのに、部屋の温度が下がっているようにも思える。ある意味で肯定であり、ある意味では拒絶ともとれる。私の予想は正解であり、失敗だったのかもしれない。
「それじゃあ僕は帰らせてもらうよ。これ以上ここにいたら、口を滑らせそうで怖い」
ウィリアム様は公務に戻り、私達は同じ部屋で気まずい空気を共有する。
「……ごめんなさい」
先に口を開いたのはエステルさんの方だった。
「……」
彼女は、私のことを信用していないのだろうか。確かに、出会ってから一ヶ月半くらいしか経ってないし。それに生まれ育った環境も、世界すらも違う。わかりあえるはずがない。
「少し、風に当たってきます」
一人で外に出て、ぐちゃぐちゃな感情を吐き出す。言わなければ、変わらなかった? 知らない方が良かった?
私はどうするのが正解だったのだろう。
それから数週間、私達はギクシャクしたままだった。神殿での祈り、馬車での移動、食事の時。私は一人になることが多くなった。エステルさんはいるんだけど、少し遠くなったというか。
私がエステルさんと事務連絡以外のことを話したのは、それから二週間が経ってからのことだった。
「そんなにエステルさんと話したいなら、本人に直接言えば良いじゃないですか」
「それが出来ないから、困ってるんだよね」
墓地での一件の後、神殿に行く回数は前よりも増えた。馬車で何か聞けるかもと期待はしていたが、それも期待レベル。かもしれない、出来たら良いなのお話。
それにしても鎮魂祭の日から……いや、違う。そうだけどそうじゃない。あの別荘に着いてから、エステルさんは少し様子がおかしかった。キーとなったのは場所か時間か、それとも両方か。
どちらにしても、何かがトリガーになってエステルさんは心を閉ざしてしまった。直接的な要因は墓場の闇。あの時に呟いていた「お母様」という言葉。
「あれっ。これってもしかして、PTSD……?」
だとしたら。多分これでピースが揃った。
「なんだい、それは。エステルと関係が?」
「心的外傷後ストレス障害。極端なストレスを体験した後に発症する病気です。エステルさんにとっての極端なストレス。ここからは私の想像でしかありませんが……」
「言ってごらん」
「鎮魂祭は銀翼の王女の命日。彼女は十三で亡くなったと聞いています。もし王女様が今も生きているとすれば、今は十八歳」
エステルさんと歳が近いというのは、エルヴィン様から聞いている。これまでの振る舞いから、年下ということは無いと思う。
「そうだね。でも、王女の遺体は僕がちゃんと確認した」
「そんなの、いくらでも偽装出来ますよね?」
「確かに。二人の遺体を確認したのは、僕とその側近だけだ。だけど、僕が嘘をつくと思うかい?」
「……」
もちろん、思っている。明らかに余所行きの笑顔、でも目は笑っていない。彼女と話している時は、もっと柔らかい表情だった。
「もしかしてエステル様は……」
「あー、そうだ。君の予想通りだよ。エステルは、僕の」
間が悪いタイミングでエステルさんが入ってくる。
「……ウィリアム様?」
「ちょうど良い所に来てくれたね、僕の大切な――――」
「それ以上話したら、殿下でも許しませんので。私はただのメイド。それ以上でもそれ以外でもございません」
何もかも凍らせる笑顔。絶対零度。そろそろ夏が来るはずなのに、部屋の温度が下がっているようにも思える。ある意味で肯定であり、ある意味では拒絶ともとれる。私の予想は正解であり、失敗だったのかもしれない。
「それじゃあ僕は帰らせてもらうよ。これ以上ここにいたら、口を滑らせそうで怖い」
ウィリアム様は公務に戻り、私達は同じ部屋で気まずい空気を共有する。
「……ごめんなさい」
先に口を開いたのはエステルさんの方だった。
「……」
彼女は、私のことを信用していないのだろうか。確かに、出会ってから一ヶ月半くらいしか経ってないし。それに生まれ育った環境も、世界すらも違う。わかりあえるはずがない。
「少し、風に当たってきます」
一人で外に出て、ぐちゃぐちゃな感情を吐き出す。言わなければ、変わらなかった? 知らない方が良かった?
私はどうするのが正解だったのだろう。
それから数週間、私達はギクシャクしたままだった。神殿での祈り、馬車での移動、食事の時。私は一人になることが多くなった。エステルさんはいるんだけど、少し遠くなったというか。
私がエステルさんと事務連絡以外のことを話したのは、それから二週間が経ってからのことだった。
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