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紅茶

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 外。忙しなく働く人々の姿。前に馬車で通った時よりも、間違いなく露店が増えている。

「いつもこんな感じなんですか?」

「いえ。今はお祭りが近いですから、張り切っているだけかと……」

 祭りは好きだけど、この時期のこれだけは嫌い。

 意識の外で、指が震える。目の前で飛び去る、青い蝶々の群れ。青は赤に、そして黒に。冷たい。どんどん冷たくなってい――――

「エステルさん?」

 いく前に、あずさが私の手を握る。温かい。生きてる。いつの間にか、両手の震えは収まっていた。

「……問題ありません。それでは次はケーキを食べに行きましょう。ええ、そうしましょう」

「無理、してないですか?」

「大丈夫です。それより、早く行かないとタルトが売り切れてしまいます」

「そっ、それは大変ですね!」

 ちらりと、街の至るところに立てられた看板を見る。祭りの名は鎮魂祭。この一年に死んだ人の魂を神の所に送る日、そして五年前に亡くなったとある王妃と第一王女の命日でもあるのだ。

 第一王女。銀翼の王女。ウィリアムがいなかったら、シリウス王国の女王になっていてもおかしくなかった人物と言われている。

「エステルさん、ぼーっとしてどうしたんですか?」

「大丈夫です。ケーキ屋はここを真っ直ぐ行った所ですから」

 別に、何の問題もない。何の、関係もない。今の私はただのメイドで。それ以上でもそれ以外でもないのだから。

 少し早いペースで歩いて、いつものケーキ屋の扉を開ける。

「や、やぁ、エステル。それにあずさも。こんなところで会うなんて奇遇だね」

「本当に奇遇ですねぇ、エルヴィン様?」

「はい……みんなには言わないでくださいお願いします」

 前略、ケーキ屋にエルヴィンがいました。あの馬鹿、今日も抜け出して来たんですか。ここのケーキが美味しいのは認めるけど。けどそれとこれとは別問題。

「まぁまぁ、あまりエルヴィン様を怒らないであげてください。私たちだって、お城を抜け出して来てるわけですし……」

「あずさ様……じゃなかった。あずさが言うならそれで良いでしょう。その代わり、ここのお会計は」

「……わかった。僕が全部出すよ」

「よろしい。あずさ、今日は思う存分食べていいですよ」

「本当ですかっ! でも、エルヴィン様に悪いような……」

僕の所持金王家のポケットマネーなら気にしなくていいよ。使ったら使った分だけお金が回ってみんなが幸せになるって、兄上が教えてくれたから」

 テーブルには、人数分のケーキ。それと紅茶が置かれている。エルは砂糖多め、あずさはミルクたっぷり。私はもちろんストレートだ。……もう、子どもじゃないし。

 やっぱり、エルと話している時のあずさは輝いている。聖女としてではなく、一人の女の子として。なんでもないことで笑う彼女が、とても可愛くて。彼といる時が、一番幸せそうで。

「いいなぁ、こういうの……」

 だから、気付けなかった。私たちが何者かに、監視されていたことに。
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