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「さてとっ、行きますか」
いつものメイド服を脱ぎ、一般的に着られているような服に着替える。ちょっと目立つ銀色の髪は、フードで丁寧に隠しておく。これでちょっと裕福な商人の娘くらいには見えることだろう。
裏口の方から城を出て、エルヴィン行きつけのケーキ屋に行く。……あの王子、自分の立場を考えずに遊びまくってるからな。今日ももしかしたらいるかも、なんて。流石にそんなはずないか。
「そこのお嬢さん、焼き鳥はいかがかい? 今なら特別におまけ、付けちゃうよ」
表の通りを歩いていると、露天のお兄さんに声をかけられる。どうやら彼は、串焼きの店を営んでいるらしい。ソースが焦げる美味しそうな香りが鼻いっぱいに広がる。
……別にこれくらいなら、怒られないはず。
「そうですね……一本、貰っても良いですか?」
「おうよっ! 別嬪なお嬢さんのために全力で焼いちゃうぜ」
彼は用意してあった肉を網に置き、良い感じに焼いていく。王宮の上品な料理も嫌いではないが、たまにはこういった庶民的なものも食べたくなってしまうのだ。
焼き上がるまでの時間。彼が積極的に話しかけてくれたから、気まずくなることはなかった。最近街で起こった面白い事件、お肉の仕入れの話。エルヴィン経由で聞くのとは違う面白さがあった。
「……まったく、聖女様ってのはスゲェよなぁ」
「その話、もうちょっと詳しく」
「おっ、おう。聖女様が召喚されたって報せが入ってから、ここも活気を取り戻してな。お陰でウチもガッポガッポよ」
広義では彼も商人に入るし、そっちの視点で見てしまうのも当然っちゃ当然か。
「それはそれは」
だから適当に相づちを打っておくことにした。まぁ、あずさの頑張りのお陰で多くの国民が笑顔になったのは、喜ばしいことだけど。
「あいよっ。出来たぜ、持ってきな」
「はい。こちらお代です。ここに置いときますね」
私が串を受け取ったのを確認してから、彼は硬貨を数える。ぴったり出したつもりだから、お釣りとかも出ないはず。
「確かに受け取ったぜ。あとこっちはサービスな。いっぱい食べねぇと大きくなれないぞっ!」
「……もう十八だから、これ以上は大きくならないし」
「マジか!? てっきり十五くらいかと思ってたんだが、立派に大人だったんだな。なんか済まん」
「良いですよ。よく間違われますし」
私は歩きながら串に刺さった肉を頬張る。噛むたびに溢れ出す旨味と、表面に塗られたソースの相性がすごく良い。
おまけで貰ったもう一本の方は、肉とスパイスだけというシンプルな串。こっちは肉の旨味がダイレクトに伝わってきてすごく美味しい。そこそこの量があったはずなのに、一瞬で無くなってしまった。
「いけないいけない。買い物を頼まれていたんでした」
口もとを拭い、食べ終わった串を捨てる。表通りを歩き、目的のケーキ屋に向かう。たくさんの靴の音、そして笑い声。やはりこの風景は嫌いじゃない。
私はケーキ屋に入る。屋内でもこの服装というわけにはいかないため、さっとフードを外す。老人でもないのに白っぽい髪だと、目立つんだよな。あと、第二王子のルーカスも同じ色だし。
いつものメイド服を脱ぎ、一般的に着られているような服に着替える。ちょっと目立つ銀色の髪は、フードで丁寧に隠しておく。これでちょっと裕福な商人の娘くらいには見えることだろう。
裏口の方から城を出て、エルヴィン行きつけのケーキ屋に行く。……あの王子、自分の立場を考えずに遊びまくってるからな。今日ももしかしたらいるかも、なんて。流石にそんなはずないか。
「そこのお嬢さん、焼き鳥はいかがかい? 今なら特別におまけ、付けちゃうよ」
表の通りを歩いていると、露天のお兄さんに声をかけられる。どうやら彼は、串焼きの店を営んでいるらしい。ソースが焦げる美味しそうな香りが鼻いっぱいに広がる。
……別にこれくらいなら、怒られないはず。
「そうですね……一本、貰っても良いですか?」
「おうよっ! 別嬪なお嬢さんのために全力で焼いちゃうぜ」
彼は用意してあった肉を網に置き、良い感じに焼いていく。王宮の上品な料理も嫌いではないが、たまにはこういった庶民的なものも食べたくなってしまうのだ。
焼き上がるまでの時間。彼が積極的に話しかけてくれたから、気まずくなることはなかった。最近街で起こった面白い事件、お肉の仕入れの話。エルヴィン経由で聞くのとは違う面白さがあった。
「……まったく、聖女様ってのはスゲェよなぁ」
「その話、もうちょっと詳しく」
「おっ、おう。聖女様が召喚されたって報せが入ってから、ここも活気を取り戻してな。お陰でウチもガッポガッポよ」
広義では彼も商人に入るし、そっちの視点で見てしまうのも当然っちゃ当然か。
「それはそれは」
だから適当に相づちを打っておくことにした。まぁ、あずさの頑張りのお陰で多くの国民が笑顔になったのは、喜ばしいことだけど。
「あいよっ。出来たぜ、持ってきな」
「はい。こちらお代です。ここに置いときますね」
私が串を受け取ったのを確認してから、彼は硬貨を数える。ぴったり出したつもりだから、お釣りとかも出ないはず。
「確かに受け取ったぜ。あとこっちはサービスな。いっぱい食べねぇと大きくなれないぞっ!」
「……もう十八だから、これ以上は大きくならないし」
「マジか!? てっきり十五くらいかと思ってたんだが、立派に大人だったんだな。なんか済まん」
「良いですよ。よく間違われますし」
私は歩きながら串に刺さった肉を頬張る。噛むたびに溢れ出す旨味と、表面に塗られたソースの相性がすごく良い。
おまけで貰ったもう一本の方は、肉とスパイスだけというシンプルな串。こっちは肉の旨味がダイレクトに伝わってきてすごく美味しい。そこそこの量があったはずなのに、一瞬で無くなってしまった。
「いけないいけない。買い物を頼まれていたんでした」
口もとを拭い、食べ終わった串を捨てる。表通りを歩き、目的のケーキ屋に向かう。たくさんの靴の音、そして笑い声。やはりこの風景は嫌いじゃない。
私はケーキ屋に入る。屋内でもこの服装というわけにはいかないため、さっとフードを外す。老人でもないのに白っぽい髪だと、目立つんだよな。あと、第二王子のルーカスも同じ色だし。
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