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黒の王子(sideルーカス)

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 暗く、じめじめとした地下室。化け物が現れそうな――というか実際住み着いている所。暗闇を好むこいつら「闇の魔物」にとっては、良い潜伏場所なのだ。

 錆び付いた金属の扉を蹴り開け、眼鏡を机の上に置く。

「ルーカス、なぜ遅れタ?」

「ちょっと、昔■したガキによく似た女がいてな。気になってちょっかいかけちまったんだ」

「腹違イの兄妹、腹ヲ裂かレた妹。その血ハ美味かっタ?」

「飲んでねぇよ。残念だがは吸血種じゃねぇんだわ」

「……まアよい。ニンゲンの考えるこトなど、我ラにはわからぬのだかラ」

 うるさい、気味が悪い。どろどろと腐った体も黒く尖った爪も全部全部、気色悪い。でも一番気持ち悪いのは、六年もこいつらとつるんでいるの方だ。

 王族に人類の裏切り者がいるとか、あまりの気持ち悪さに背筋がゾクゾクしてしまう。……別に俺は裏切ったつもりは無いのだけれど。

「わざわザ我らを呼びつけたといウことは、それなリの用事があるんだよナ」

「あぁ、もちろん。どうせそっちも気付いているんだろう?」

 毎日行われているらしい祈り。そのせいで、闇の魔物による被害の報告が目に見えて少なくなっている。こいつらがここに来ているということは、まだ完全ではないと考えられるが。

「聖女の召喚カ。なぜ止めなかっタ?」

 実際、こいつらの気配が弱まっているのは確かだ。

「いやぁ、ここで止めたらさぁ――――俺が怪しまれんだろ? キングの仕事は玉座にふんぞり返ることだ。……決して王気取りのガキにヘコヘコする事じゃねぇ」

 王気取りのガキ、敬愛兄上。あいつの、偽善者じみた顔を見るだけで吐き気がこみ上げてくる。関わりたくない。近付きたくない。

 あいつを無条件で慕う愚弟もそうだ。視界に入るだけで苛立つ。どちらも出来るだけ早く潰してしまいたい。俺のため、そして俺についてくるこいつらのためにも。

「……貴様の描く王は、誰カを切り捨てルのカ? 我らを見捨てルのカ?」

「見捨てないさ。そのために呼んだんだからなぁ?」

 立ち上がり、机を片手で強く叩く。手のひらがじんじんと熱を帯びる。

 口角を上げた瞬間、こめかみに激痛が走る。まさかもう? いや、あれが簡単に破られるはずがない。こいつらが使う呪いを改良したものが。

 痛みを顔に出さず、そのまま席に座る。

「さぁ、ここからは交渉のお時間だ。俺が求めているものは知っているだろう? じゃあ、お前らは何を求める……なんて聞くだけ無駄か」

 俺は彼らに、猛毒の調達を依頼した。五年前にとある王女と王妃を殺したものと同じ毒。体に入っただけで、すぐに死に至らしめる毒を。

「キヒヒ。お前は、そうでなくチゃ。我ラの、ニンゲンの全てを統べル王はそうでナくちャ」

「邪魔者ハいらナい。我らの理想郷ハすぐそこニ」

「心配ハいらナい。二カ月後に毒ハ出来上がる。我らの理想郷ハ出来上がル」

「「王よ、我らの王ヨ――――」」

 我らの生に祝福あれ。我らの死に呪いあれ。
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