そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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水色

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「おはようございます、ルーカス様。何かお探しでしょうか?」

「あぁ? ……お前、愚弟のとこの奴か。ほんと、従者は主人に似るらしいな? 馴れ馴れしくて嫌になる」

 他に誰もいない、というか、他の王位継承者がいない場所でのみ見せる本性。ウィリアムとは正反対に、荒々しく冷たい視線。人並み以上の欲を持っているはずなのに、瞳に光が灯っていない。

「そういやこの間、聖女の所にされたそうだな。お前みたいな優秀な駒を手放すなんて、あいつも相当の馬鹿だと思わないか?」

「……優秀な駒だなんて、光栄です。それでは失礼致します」

 別に、エルヴィンを侮辱されたことに怒っているわけではない。というか怒ったところで意味なんてない。むしろ、逆効果。

 彼だって王位継承権を持った王子。つまり、国内でも有数の権力者なのだ。メイド一人の命なんて、自分の手を汚さずとも簡単に奪うことが出来る。

 だからこれ以上何か起きる前に私はその場を立ち去ろうとして――――お盆を持っていない方の腕を掴まれる。朝食は無事だったが、私じゃなかったらかなり危なかったと思う。

「ルーカス様、これは一体なんの真似でしょうか?」

 そのまま、私の体は壁に押し付けられる。彼の呼吸も、拍動さえも耳に届く距離。朝っぱらから大胆だなとは思わなかった。流石にそういうことをする人じゃないとは思うが。

「……動揺しねぇんだな」

 彼の水色の瞳と、私の青い瞳が交差する。というか、舐めるように、値踏みするように私を見ている。

 そのたびに視界いっぱいに広がる整った顔。ウィリアムほどではないが、彼も国内ではかなり上の方なのではなかろうか。

「何が、言いたいのでしょうか?」

「いや、なんでも。なんか興が醒めた」

 ひらひらと手を振りながら、彼は立ち去る。さっきまで掴まれていた腕には、わずかに赤い痕がついていた。
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