12 / 32
菓子
しおりを挟む
朝。冷たい風が頬を撫でる。春の半ばのはずなのに、この時間だけはまだ冬の寒さが残っている。
聖女が召喚されてから数日が経った。この数日間、禁書庫に行ったり神殿に通ったりと、割と忙しかった。私が忙しかったのは、主にエルヴィンのせいなんだけど。
「はぁ……。過労で倒れたら訴えますからね、ウィリアム様……」
私は厨房に二人分の食事を取りに行く。あずさが目覚めたのは数分前だから、今は部屋で顔を洗っている頃だろう。
「おはよう、エステルちゃん」
「おはようございます。本日も二人分、どちらも少なめでお願いします」
あずさの分と、私の分。あの日約束したように、あれから食事は二人でとるようにしている。ちなみに「少なめ」と言っておかないと、ちょっと食べきれない量が出てしまうのだ。
「あいよっ、ちょーっと待っててね。あー、そうそう。聞いたよ。エステルちゃん、聖女様の所に行ったんだってね。どうだい? 上手くやってるかい?」
彼女は、調理をしながら私に話しかける。なんで出来上がったものが無いかというと、あずさの希望する時間が早すぎるから……らしい。
流石に従者向けのメニューを客人に食べさせるわけにもいかないから、特別に作ってもらっているのだ。
「まぁ、そうですね。こっちはなんとかなるんですが、神殿の方でちょっと……迷ってしまいまして」
「ああ、なるほどねぇ。エステルちゃん、ほぼずっとここで生活してきたからね。建物の様式から違うあそこで迷うのも無理ないさ」
「あはは……」
「はい、少なめ二人分。こっちはおまけのクッキーさ。聖女様と仲良くな」
「ありがとうございます。では」
クッキーをポケットに入れてから、二人分の朝食を運ぶ。今日のメニューはサンドイッチと冷製スープだ。スープの野菜、あずさの苦手なものじゃなければいいんだけど。
そんなことを考えながら歩いていると、ずっと向こうの方から舌打ちが聞こえてきた。サラサラの銀髪、水色の瞳。そして眼鏡……ということは、第二王子のルーカス様か。
聖女が召喚されてから数日が経った。この数日間、禁書庫に行ったり神殿に通ったりと、割と忙しかった。私が忙しかったのは、主にエルヴィンのせいなんだけど。
「はぁ……。過労で倒れたら訴えますからね、ウィリアム様……」
私は厨房に二人分の食事を取りに行く。あずさが目覚めたのは数分前だから、今は部屋で顔を洗っている頃だろう。
「おはよう、エステルちゃん」
「おはようございます。本日も二人分、どちらも少なめでお願いします」
あずさの分と、私の分。あの日約束したように、あれから食事は二人でとるようにしている。ちなみに「少なめ」と言っておかないと、ちょっと食べきれない量が出てしまうのだ。
「あいよっ、ちょーっと待っててね。あー、そうそう。聞いたよ。エステルちゃん、聖女様の所に行ったんだってね。どうだい? 上手くやってるかい?」
彼女は、調理をしながら私に話しかける。なんで出来上がったものが無いかというと、あずさの希望する時間が早すぎるから……らしい。
流石に従者向けのメニューを客人に食べさせるわけにもいかないから、特別に作ってもらっているのだ。
「まぁ、そうですね。こっちはなんとかなるんですが、神殿の方でちょっと……迷ってしまいまして」
「ああ、なるほどねぇ。エステルちゃん、ほぼずっとここで生活してきたからね。建物の様式から違うあそこで迷うのも無理ないさ」
「あはは……」
「はい、少なめ二人分。こっちはおまけのクッキーさ。聖女様と仲良くな」
「ありがとうございます。では」
クッキーをポケットに入れてから、二人分の朝食を運ぶ。今日のメニューはサンドイッチと冷製スープだ。スープの野菜、あずさの苦手なものじゃなければいいんだけど。
そんなことを考えながら歩いていると、ずっと向こうの方から舌打ちが聞こえてきた。サラサラの銀髪、水色の瞳。そして眼鏡……ということは、第二王子のルーカス様か。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる