そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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神官

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 エルヴィンの気も済んだようなので、神官長のところに向かう。ちなみに神官長の部屋までは、その辺にいた神官その一に案内してもらった。決して王族パワーで脅して案内させたわけではない。

 あと、神官が名乗ってくれなかったから便宜上心の中で神官その一と呼んでいるだけで、彼は神官その一とかいうふざけた名前ではない。

 まぁ、謁見の方は何事もなく終わった。第三王子のエルヴィンがいたからか、神殿サイドがあずさに変なちょっかいをかけてくることがなかったのは幸いか。

 ちなみに今は、神官その二が神殿の内部を案内してくれている。こっちも|(以下略)

 昼間だからだろうか、そこそこ人通りも多い。エルヴィンが居ることに驚く人もそこそこいた。まぁ、王子が神殿にいたら普通に驚くだろう。普段は祭りの日くらいしか訪れないわけだし。

「ここが祈祷室でございます。今後聖女様には、ここで祈りを捧げていただくことになります」

 案内人こと神官その二は、我々を奥の方の部屋に案内した。入口付近は神殿の財を見せつけるかのように豪華であったが、こちらは質素で落ち着いた感じがする。

 そして、表以上に手入れが行き届いているようにも。

「祈りとは、どういうものなのでしょうか?」

「はい、聖女様。祈りとは、自然に宿る者の怒りを鎮める行為だと聞いております。私は高位の神官ではないため、これ以上のことは知らされておりません。お役に立てず、申し訳ございません」

 神官は深々とお辞儀をする。あたふたとするあずさ。もう涙目になってしまっている。

「あずさ様、その件についてでしたら後で詳しく説明致します」

「エステルさんはご存じなんですかっ!」

「一応、知識としては。エルヴィン様も……あっ、お読みになってなかったですね」

 資料を集めた内の一人であるウィリアムは確実に知っているはず。それに、向上心の高いルーカスも。王子の中で唯一読んでいなかったのはこのアホ……じゃなかった。いつでも能天気なエルヴィンだけなのだろう。

「だって、エステルが……」

「私が何か?」

「エステルが全部覚えていてくれるから……」

「私をなんだと思っているんですか」

「……とても頼れる僕のメイド?」

「昨日異動になったので、もうあなたのメイドではございません」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。神官さんも困ってるじゃないですか」

 神官は、苦笑いしながら固まっていた。



 しばらくしてから私達は王宮に戻り、昼食を済ませる。エルヴィンの後任メイドともここで顔を合わせた。まぁ、元からいた人だから知らない関係じゃないんだけど。

 エルヴィンとあずさが向かい合い、それぞれの後ろにメイドが控える。エルもあずさも不服そうにしていたが、他の人の目もあるのだ。今回ばかりは勘弁してくれないだろうか。

 ちなみに後任の女性――立場上は私の元部下も、私に彼らと一緒に食事をとるように言ってきた。……お前もグルだったのか。
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