そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

文字の大きさ
上 下
10 / 32

神官

しおりを挟む
 エルヴィンの気も済んだようなので、神官長のところに向かう。ちなみに神官長の部屋までは、その辺にいた神官その一に案内してもらった。決して王族パワーで脅して案内させたわけではない。

 あと、神官が名乗ってくれなかったから便宜上心の中で神官その一と呼んでいるだけで、彼は神官その一とかいうふざけた名前ではない。

 まぁ、謁見の方は何事もなく終わった。第三王子のエルヴィンがいたからか、神殿サイドがあずさに変なちょっかいをかけてくることがなかったのは幸いか。

 ちなみに今は、神官その二が神殿の内部を案内してくれている。こっちも|(以下略)

 昼間だからだろうか、そこそこ人通りも多い。エルヴィンが居ることに驚く人もそこそこいた。まぁ、王子が神殿にいたら普通に驚くだろう。普段は祭りの日くらいしか訪れないわけだし。

「ここが祈祷室でございます。今後聖女様には、ここで祈りを捧げていただくことになります」

 案内人こと神官その二は、我々を奥の方の部屋に案内した。入口付近は神殿の財を見せつけるかのように豪華であったが、こちらは質素で落ち着いた感じがする。

 そして、表以上に手入れが行き届いているようにも。

「祈りとは、どういうものなのでしょうか?」

「はい、聖女様。祈りとは、自然に宿る者の怒りを鎮める行為だと聞いております。私は高位の神官ではないため、これ以上のことは知らされておりません。お役に立てず、申し訳ございません」

 神官は深々とお辞儀をする。あたふたとするあずさ。もう涙目になってしまっている。

「あずさ様、その件についてでしたら後で詳しく説明致します」

「エステルさんはご存じなんですかっ!」

「一応、知識としては。エルヴィン様も……あっ、お読みになってなかったですね」

 資料を集めた内の一人であるウィリアムは確実に知っているはず。それに、向上心の高いルーカスも。王子の中で唯一読んでいなかったのはこのアホ……じゃなかった。いつでも能天気なエルヴィンだけなのだろう。

「だって、エステルが……」

「私が何か?」

「エステルが全部覚えていてくれるから……」

「私をなんだと思っているんですか」

「……とても頼れる僕のメイド?」

「昨日異動になったので、もうあなたのメイドではございません」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。神官さんも困ってるじゃないですか」

 神官は、苦笑いしながら固まっていた。



 しばらくしてから私達は王宮に戻り、昼食を済ませる。エルヴィンの後任メイドともここで顔を合わせた。まぁ、元からいた人だから知らない関係じゃないんだけど。

 エルヴィンとあずさが向かい合い、それぞれの後ろにメイドが控える。エルもあずさも不服そうにしていたが、他の人の目もあるのだ。今回ばかりは勘弁してくれないだろうか。

 ちなみに後任の女性――立場上は私の元部下も、私に彼らと一緒に食事をとるように言ってきた。……お前もグルだったのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】 「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」 メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲 しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた! しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。 使用人としてのスキルなんて咲にはない。 でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。 そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。

メイドを目指したお嬢様はいきなりのモテ期に困惑する

Hkei
恋愛
落ちぶれ子爵家の長女クレア・ブランドンはもう貴族と名乗れない程苦しくなった家計を助けるため、まだ小さい弟の為出稼ぎに行くことにする。 母の知り合いの公爵夫人の力を借りて住み込みのメイドになるクレア。 実家である程度家事もやっていたり、子爵令嬢としての教育も受けてるクレアはメイドとしては有能であった。 順調に第2の人生を送っていたのに招かざる来訪者が来てからクレアの周りは忙しくなる。

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...