そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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子守

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「うん! 兄上とあずさ、それにエステルも一緒なら行くよ!」

「自分は、遠慮しておく。祭り以外であいつ国王陛下の顔は見たくないのでな」

 偶然か必然か、昨日部屋で話したメンバーになる。あずさとエルヴィンが楽しそうに話している。私はウィリアムの手を躱しながら、相づちを打ったりする。

 と、そうこうしている内に、王の待つ間にたどり着く。

 ウィリアムの目があるからだろう。王はあずさに、聖女として良く励めと言っただけであった。

「あずさ様、次は神殿の方に」

 謁見を済ませた後、ウィリアムは公務があるからと自分の執務室に戻っていった。流石次期国王。

 その彼の指示で早めに神殿に顔を出すというものがあるから、出来るだけ早めに行こうとしているのだが。

「は、はいっ」

「僕も一緒に行くから安心して」

「だーれーがっ、一緒に行くですって?」

 なんで着いてこようとしてるんですか。お仕事は……って、そういえば聖女召喚の前に私が全部終わらせてましたね。

「エステル、文句あるの?」

「そりゃもちろん、ありますよ」

 王位継承権を持つ王子がそんなにふらふらするのは、世間体的にマズいでしょうが。あと、護衛はどうするつもりなんですか。

「まぁまぁ、エルヴィン様に悪気はないわけですし……」

「本人に悪気が無くても、悪意を持った人はたくさんいるんですから。もっと王子としての自覚を持って頂かないと」

「自覚を持てと言われたって……」

 どうせ王位はウィリアムのものになるのだから。そう言いたげな目でこっちを見る。この表情を見ていると、本能的な何かが、こう……刺激されてくる。

 ウィリアムが私の頭を撫でまくるのもまさか……? いやいや、そんな馬鹿な話があるか。あの王子が母性本能刺激されてるとか、想像するだけで鳥肌が立ちそうだ。

「ああ、もうっ。良いですよ。その代わり勝手な行動はやめてくださいね」

「やったぁ! エステルだーいすき!」

 馬車を手配して、神殿に行く。建物の大きさ自体は王宮より小さいものの、装飾はこちらの方が細かいものとなっている。

 立場上、年に数度しか訪れなかった施設。だがこれからは、聖女の――あずさの従者として行く機会が増えるのか。

「エステルエステルっ! ここ、ものすごく綺麗っ!!」

「そうですねー、エルヴィン様」

 うん。でも子守りはこれっきりにして欲しい。気に入った装飾を見つけるたびに私を呼び出さないでくれ。神殿サイドのトップである神官長と話す前に、私が過労で倒れちゃうから。

「エステルさん、その、謁見? に行かなくて良いんですか?」

「この王子を放置する方が危ないといいますか、置いていったらいろんな意味でマズいといいますか……。その、政治的に」

「あはは……。えっと、お疲れさまです」

 はい。めちゃくちゃお疲れです。
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