そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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コルセット

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「いえ。問題ないですよ。エルヴィン様の無茶振りに比べたら、可愛いものです」

 枕元で子守唄を歌ってくれとか、公務の代行をしてこいとか。後者に至ってはウィリアムにバレた挙げ句、一か月以上ネタにされ続けた。

 間違いなくそれよりはずっと楽だろう。

「な、なら……」

「そうですね。今日は難しいですが、明日以降の食事はご一緒致します。……エルヴィン様も一緒に食べた方が美味しいという理由で、私と同じ席に着きたがっておりましたし」

 さっきまでずっと曇っていた彼女の表情が、少しだけ明るくなる。沈んでいるよりも、こっちの方がずっといい顔だ。

 あずさは出されたものを黙々と食べていく。その間私は、近づいてくる人や不躾な視線が無いことを確認し続ける。

「あずさ様、今日のご予定をお伝え致します」

「あっ、う、うん」

 食べ終わってから、私はあずさに今日やるべきことを話す。もちろん全てキャンセルすることも出来るとは伝えたが、彼女は全てやると言った。

「ではまずは、国王……は役立たずなので後回しにして」

「えっ!?」

 予想通りの反応だ。まぁ、普通は国王の方が権力持ってそうなイメージあるし。

「改めてウィリアム様の所に挨拶に行きましょう」

「お、王様の方が偉いんじゃ?」

「私、あの人嫌いですし」

「えぇ……」

「というのは流石に冗談ですよ。ウィリアム様からの命令です。……それにウィリアム様がいた方が、国王の話も早く終わりますから」

「なる、ほど?」

 これに関しては、実際に体験しないとわからないことだし。

「ではお召し物の準備を致しますね。あずさ様はコルセットを着けたことは?」

「えっと、ないです」

「でしたらこちらはいかがでしょうか」

「……その、エステルさんに全部任せます」

 こちらの洋服についてはなにも知らないのでと、彼女は言う。確かに彼女が着ていた服は、ここで着られているものとかなり違っていたし。

「承りました」
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