僕のお姫さま

藤原アオイ

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僕はお姫さま

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「ねぇ、お姉ちゃん。僕もお姫さまみたいになれるかなぁ?」

「えっと……どうしてお姫様になりたいの?」

「その……えっと、」

「いいよ、ゆっくりでも」

「う……うんっ!」

 僕は昔から、童話に出てくるお姫様に憧れていた。カラフルでふわふわしたドレス、キラキラのアクセサリー、そして子どもの夢と希望をぎゅっと詰め込んだティアラ。

 それらを身に付けた僕は、どれだけ可愛くなれるのだろう。どれだけ自分を好きになれるのだろう。

 あぁ。すごく大きな舞踏会でくるくると回って、運命の王子様と出会って。僕は彼と情熱的な恋をして。

 僕がなりたいのは王子様じゃなくてお姫さま。迎えにいく方じゃなくて、運命の出会いを待つ方に。草原に咲いている一輪の花のように。

 でも、お母さんとお父さんはきっと、僕に男らしく育って欲しいと思っているはず。だから言えない。

 だけど、お姉ちゃんならわかってくれると思って。いつも僕の背中を押してくれるお姉ちゃんなら。僕が踏み出せない一歩を一緒に踏み出してくれるお姉ちゃんならって思ったんだ。

「うん、わかった。ちょっとそこで待っててね」

 お姉ちゃんは部屋からメイクセットを持ってきて。そこには絵の具セットみたいにたくさんの色が入っていて。キラキラの宝石箱みたいで。

「そこに座っちゃってー」

「えっ、ちょっ!」

 初めてのお化粧はちょっとだけくすぐったくて。なんだかほっぺたの辺りがくすぐったくて。すごーく逃げたくなっちゃったけど、お姉ちゃんにがっちりと捕まっちゃって。

「暴れないでねー。せっかくの可愛いお顔が大変なことになっちゃうから」

 僕にメイクをしていくお姉ちゃんは本当に楽しそうで。両親とか机の前とかにいるよりもずっと生き生きとしていて。僕は今さら「やめて」なんて言えなかった。

「はい完成っ!」

「お姉ちゃん、僕は本当にお姫さまみたいになれるの……?」

「なれるよ、きっと。――だってもう、私のお姫様なんだから」

 鏡の中にいたのは、僕が知ってるお姫さまに負けないくらいに可愛いお姫さまだった。
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