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ノアキ光

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#5 憎い女 (日常)

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 俺には憎い女がいる。

 女と出会ったのはそう昔の話ではない。雨の中、傘もなく惨めたらしく座り込んでいた女を哀れに思い、俺が声をかけた。

 あの時の俺は愛していた彼女に振られやけっぱちになっていたのだ。さみしくてとにかく誰でもいいから隣にいて欲しかった。だが、その浅慮さがすべての過ちだったのだ。

 ため息を飲み込み、仕事で疲れた体を引きずるように帰路を急ぐ。家に着く頃にはきっと日にちが変わっているだろう。こんなにくたびれた体で明日も朝早くに家を出ることを思うと気分が沈む。

 だが俺は今夜も人の家に上がり込んでいるであろう女のことを考える方が憂鬱だった。

 女は気がつくと勝手に俺の家に上がり込むようになり、しまいには図々しく俺の家に住み着いた。何度追い返しても気が付けば我が物顔で俺の家の中にいる。

 どうせ今日も、と考えながら自宅の玄関の扉を開ける。部屋は電気も付けられておらず、今朝消し忘れたままのテレビの青白い光だけが部屋を照らしていた。

 手探りで部屋の電気をつけると白熱灯の明かりの下に憎い女の姿が現れた。

 女は仕事で疲れて帰ってくる俺に『おかえり』の一言もよこさずただ気だるげに視線だけをこちらに向けた。俺が今朝整えたばかりのベッドは女が寝転んでいるせいでグシャグシャだ。よく見れば部屋のあちらこちらが出かける前よりも荒れていた。

 だがそんなものには構っていられない。とにかく疲れたのだ。俺は女が寝転ぶベッドに飛び込んだ。その衝撃に女が目線だけで俺を咎めた。俺はそれさえも無視し目を閉じた。意識がなくなるまではきっと10秒もなかっただろう。

 スマホのアラームで今朝も目を覚ます。女の姿は俺の隣にはない。あたりを見回せばフローリングの床にペタリと座り込んでいた。その姿を見て気まぐれに呼んでみる。

「おいで」

 呼んでも憎い女はニャアと返すだけでこちらに近づこうともしない。

 俺の女は今日もつれない。最初は俺に懐いたのかと思っていたが、家のほうに懐いたようだった。
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