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#1 大人になるということ (ほのぼの)
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大人っていうのはすてきだと、ぼくは思う。
お金もたくさん使えるし、重たいものだって軽々と持ち上げられる。
どこにだって行けるし、なんてったって何をしても叱られないのがいい。
「ねぇ、おじさん。大人になるってどんな気持ちだった?」
以前、ぼくはおじさんに聞いたことがある。
おじさんは父さんの弟で、なんでも知っているのだ。
「うーん、そうだね」
おじさんは遠くを見るような目つきをした。
「自由だけど、自分の責任で物事をやらなきゃいけなくなる。大変さ」
おじさんの言うことは、時々むずかしい。なんとなく、いいことばかりじゃないんだな、というのはわかった。
「だけど、案外変わらないところもあるものだよ」
そう言うと、おじさんはぼくの頭をぐりぐりと撫でて笑った。
「はいはい、お掃除をするからどいてちょうだいね」
おじさんとの会話を思い出していると、かあさんが入ってきて、ぼくは部屋を追い出されてしまった。
仕方ないので、近所を散歩することにした。
本当は友達と遊びたかったのだけど、ちょっと前に遠くへ行ってしまったのだ。
財布に入っているのは、おこづかいが500円だけ。あまり多くのお金を持つと危ないからと、持たせてくれないのだ。
ぼくは近所の駄菓子屋さんへ行き、店番のおばあちゃんとお話しした。
それから公園へ行き、日が暮れるまで日向ぼっこをした。
帰ったら、かあさんに叱られた。
「どこへ行っていたの。心配したんだから」
「ちょっと、そこまで出掛けてきただけだよ……」
しどろもどろになって、ぼくは応える。
かあさんは「ふん」と鼻を鳴らした。
「まあいいわ。ところでお手伝いしてほしいんだけど」
「何さ」
「そこにお米袋があるでしょ。お台所まで運んでほしいの」
見ると、玄関横に米袋が置いてあった。けっこう重そうだ。
ぼくはちょっと不安になったが、「わかった」と強気に言った。
「おや、ちょっと待ってください」
米袋を持ち上げようとしたところで、呼び止められる。
「僕がやりますよ。お義父さんは腰を悪くしたら大変ですから、無理をなさらないでください」
そう言って義理の息子は軽々と米袋を持ち上げ、台所まで運んでいった。
頼もしい彼の後ろ姿を見つつ居間へ入ると、孫が抱きついてきた。
「おじいちゃん、おかえり!」
「おお、ただいま」
ぼくは孫の頭を撫でてやる。
可愛い孫と娘夫婦。そして妻。
われながら、平和で幸せな暮らしだ。
夕食後、ぼくが晩酌をしていると、孫が聞いてきた。
「お酒っておいしい?」
「ああ。興味あるかい?」
「うん。でもボクはまだ飲んじゃいけないんでしょ。子供だから」
可愛いだけではなく、弁えのある孫だ。
「あーあ、早く大人になりたいなぁ。ねぇおじいちゃん、大人になるってどんな感じ?」
「うーん、そうだなぁ……」
ぼくは考える。
お金はあまり使えないし、腰が痛むから重たいものも持ち上げられない。
行けるのはせいぜい近所の公園くらいまでで、妻には叱られてばかりだ。
「案外、変わらないものだよ」
そう答えて、ぼくは孫の頭をぐりぐりと撫でた。
お金もたくさん使えるし、重たいものだって軽々と持ち上げられる。
どこにだって行けるし、なんてったって何をしても叱られないのがいい。
「ねぇ、おじさん。大人になるってどんな気持ちだった?」
以前、ぼくはおじさんに聞いたことがある。
おじさんは父さんの弟で、なんでも知っているのだ。
「うーん、そうだね」
おじさんは遠くを見るような目つきをした。
「自由だけど、自分の責任で物事をやらなきゃいけなくなる。大変さ」
おじさんの言うことは、時々むずかしい。なんとなく、いいことばかりじゃないんだな、というのはわかった。
「だけど、案外変わらないところもあるものだよ」
そう言うと、おじさんはぼくの頭をぐりぐりと撫でて笑った。
「はいはい、お掃除をするからどいてちょうだいね」
おじさんとの会話を思い出していると、かあさんが入ってきて、ぼくは部屋を追い出されてしまった。
仕方ないので、近所を散歩することにした。
本当は友達と遊びたかったのだけど、ちょっと前に遠くへ行ってしまったのだ。
財布に入っているのは、おこづかいが500円だけ。あまり多くのお金を持つと危ないからと、持たせてくれないのだ。
ぼくは近所の駄菓子屋さんへ行き、店番のおばあちゃんとお話しした。
それから公園へ行き、日が暮れるまで日向ぼっこをした。
帰ったら、かあさんに叱られた。
「どこへ行っていたの。心配したんだから」
「ちょっと、そこまで出掛けてきただけだよ……」
しどろもどろになって、ぼくは応える。
かあさんは「ふん」と鼻を鳴らした。
「まあいいわ。ところでお手伝いしてほしいんだけど」
「何さ」
「そこにお米袋があるでしょ。お台所まで運んでほしいの」
見ると、玄関横に米袋が置いてあった。けっこう重そうだ。
ぼくはちょっと不安になったが、「わかった」と強気に言った。
「おや、ちょっと待ってください」
米袋を持ち上げようとしたところで、呼び止められる。
「僕がやりますよ。お義父さんは腰を悪くしたら大変ですから、無理をなさらないでください」
そう言って義理の息子は軽々と米袋を持ち上げ、台所まで運んでいった。
頼もしい彼の後ろ姿を見つつ居間へ入ると、孫が抱きついてきた。
「おじいちゃん、おかえり!」
「おお、ただいま」
ぼくは孫の頭を撫でてやる。
可愛い孫と娘夫婦。そして妻。
われながら、平和で幸せな暮らしだ。
夕食後、ぼくが晩酌をしていると、孫が聞いてきた。
「お酒っておいしい?」
「ああ。興味あるかい?」
「うん。でもボクはまだ飲んじゃいけないんでしょ。子供だから」
可愛いだけではなく、弁えのある孫だ。
「あーあ、早く大人になりたいなぁ。ねぇおじいちゃん、大人になるってどんな感じ?」
「うーん、そうだなぁ……」
ぼくは考える。
お金はあまり使えないし、腰が痛むから重たいものも持ち上げられない。
行けるのはせいぜい近所の公園くらいまでで、妻には叱られてばかりだ。
「案外、変わらないものだよ」
そう答えて、ぼくは孫の頭をぐりぐりと撫でた。
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