→本当にあったかもしれない不思議な話

切り取られた時間

何年も前のあの日、祭日の大通りは若者でごった返していた。彼女と買い物を楽しんでいた僕は、トイレを探すため彼女を店に残し、裏路地へと迷い込んだ。薄暗い路地を進み、人通りの絶えた空地に出ると、そこにはトタンのトイレと、古めかしい服装の少年たちがいた。

用を足し、路地を戻ると、たった5分ほどのはずなのに、二時間以上が経過していた。彼女は激怒し、僕は混乱した。腕時計と携帯電話の時間は、路地に入る前のまま。全身を冷たい汗が伝い、思考はまとまらない。

その後、精神科を受診するも、原因は不明。ただ、世界には似たような経験をした人がいると聞き、少しだけ安堵した。あの日の記憶は、白黒写真に色が少しだけ乗ったような、どこか現実離れしたものだった。少年たちの顔は青白く、晴天のはずの空は、空地では曇っていた。

あれから十年。今では、あの不思議な出来事も遠い過去のようだ。彼女と結婚し、穏やかな日々を送っている。だが、あの日の記憶は、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。まるで、別の世界へと迷い込んだような、あの不思議な体験は、一体何だったのだろうか。

精神科医によると、この現象は「時間歪曲体験」と呼ばれ、極めて稀だが、世界中で報告例があるという。原因は不明だが、強いストレスや疲労が関係している可能性が示唆されている。僕の場合は、あの日、人混みの中で強いストレスを感じていたのかもしれない。

あの体験は、僕の人生観を大きく変えた。日常の中に潜む、非日常の可能性。そして、時間の流れは、決して絶対的なものではないのかもしれないという、不思議な感覚。

あれから、僕は時間の流れを意識するようになった。