→本当にあったかもしれない不思議な話

霧に沈む社

それは、秋の始まりを告げるある日曜日のことでした。私は友人と共に、人気の少ない山間の村を訪れることにしました。目的地は、山頂にある古い神社です。霧が深く立ち込めるその場所は、かつて神聖な場所として崇められていました。

村の入り口に着くと、濃い霧が辺りを包み込み、視界がほとんど利きません。
友人は、
「この霧はいつもこんな感じだ」
と言いながら、手元の地図を広げました。
「でも、気をつけて進めば大丈夫だよ」
と、少し不安そうな私を安心させるように言いました。

私たちは山道を登り始めました。霧の中を進むにつれて、周囲の音が徐々に消え去り、ただ足音だけが響き渡ります。やがて、奇妙な気配を感じるようになりました。それは説明のつかないもので、何かに見られているような感覚でした。

ふと立ち止まり、辺りを見渡すと、霧の中に人影が浮かんでいることに気づきました。私は「誰かいるの？」と声をかけましたが、返事はありません。
友人も気づいたようで、
「おかしいね、こんなところに人がいるはずがない」
と言いました。

私たちは再び歩き始めましたが、何度もその人影が見えるのです。それは徐々に近づいてくるように感じられ、次第に不安が増していきました。

山頂の神社に到着したとき、霧は一層深く、神社の輪郭すらぼんやりとしか見えませんでした。
友人は、
「これ以上進むのはやめた方がいいかも」
と言いましたが、私は神社をもう少し見てみたいと考えていました。

しばらくすると、突然冷たい風が吹き抜け、霧が一瞬だけ晴れました。その瞬間、神社の境内に佇む古い木の鳥居が見えました。しかし、その鳥居の下には、先ほどの人影が立っていたのです。顔は見えませんでしたが、その存在は明らかでした。

私たちは恐怖に駆られ、すぐに山を下りることにしました。帰り道でもその人影は何度も現れ、まるで私たちを見送るかのように消えては現れました。やがて霧の薄れる山のふもとにたどり着くと、人影は完全に消え去っていました。

村に戻った後、地元の老人にその話をすると、彼は静かに語り始めました。
「あの神社は、昔から何かがいると言われているんだ。その霧の中には、霊的な存在が住んでいるのかもしれない。我々の中には、神と信じる者もいるのだ」

私たちはそれ以上何も言えず、ただその場を去りました。あの不気味な人影は一体何だったのか、今でも不明ですが、あの日の体験は決して忘れられません。霧の中には、まだ解明されていない恐ろしい何かが潜んでいるのかもしれません。