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#145 囲炉裏の火
しおりを挟む「囲炉裏が呼んでいる――」
そう感じたのは、祖父の古い家であの囲炉裏を見つけた瞬間だった。
東京での仕事に疲れ果て、祖父の遺品整理を手伝うために田舎へやって来た俺。時代錯誤の木造の家には、煤けた囲炉裏が静かに佇んでいた。その火はもう何十年も消えているはずなのに、不思議なことに、まだ暖かみを感じたのだ。
「お前も疲れただろう」
誰かの声が聞こえた気がした。
気がつくと、囲炉裏に置かれていた鉄瓶が静かに湯気を上げていた。あり得ない光景に目をこすりながらも、何か引き寄せられるように囲炉裏の端に腰を下ろした。
次の瞬間、ぐんと視界が歪むような感覚に襲われた。体が浮くような軽さ、けれど心はなぜか穏やかだ。そして気がつくと、俺は見知らぬ場所に立っていた。
──異世界転生
聞き慣れたその言葉が脳裏をよぎる。だが、この異世界は、よくあるファンタジーの世界とは違っていた。
俺の目の前には、囲炉裏のある暖かい茶の間が広がっていたのだ。木の壁には縄や干し魚が掛けられ、窓の外には豊かな森が広がっている。見知らぬ中年の男が囲炉裏に火をくべながら言った。
「おお、来たか。囲炉裏の精霊が選んだ者だな」
囲炉裏の精霊? どうやらこの異世界では囲炉裏が神聖視されており、世界を救う力を持つと信じられているらしい。そして、俺はその囲炉裏の「使い手」として召喚されたというのだ。
「お前の使命は、この火を絶やさないことだ」
囲炉裏の火を守る? それだけ? と思ったが、どうやらこの火には特別な力が宿っているらしい。火を通して周囲に平和や恵みをもたらし、闇の力を払うのだという。
だが、俺はすぐにこの世界が一筋縄ではいかないことを知った。村には不吉な影が差し、森から闇の獣が現れる。囲炉裏の火も普通の薪では燃え続けず、特別な「精霊の木」を使う必要があるという。
俺は村人たちと協力し、森の奥深くへ冒険に出た。奇妙な生物との出会い、古代の遺跡の発見――すべてが囲炉裏の火を守るためだった。
やがて俺は気づいた。この火はただ暖を取るだけのものではなく、人々の心を繋ぐ象徴だったのだ。
闇の獣に怯えていた村人たちが、囲炉裏を囲み、語り合い、団結する姿を見るたびに、俺の心にも温かい火が灯った。
最終的に、闇の力を封じた俺は、この世界に居場所を見つけた。囲炉裏の火は燃え続け、村は再び平和を取り戻す。
――時折、東京の喧騒を思い出すが、俺はもう戻るつもりはない。この世界で、囲炉裏と共に生きるのが俺の「転生後の人生」なのだ。
そして今日も俺は、囲炉裏の前に座り、鉄瓶から立ち上る湯気を眺めながら新しい物語を紡ぐのだ。
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