110 / 197
#110 アキアカネと騎士の少女
しおりを挟む「あんた、いつまでそんなぼんやりした顔してるんだい。こっちは命懸けだってのに!」
鋭い声が耳を打つ。赤い鎧をまとった少女が、炎のように燃え盛る夕焼けの空を背に剣を振りかざしていた。
「……いや、わかってるんだけどさ、まだ慣れないんだよね、こういう状況。」
僕は苦笑いしながら、手に握られた小さな赤い短剣を見下ろした。
名前は確か、アキアカネの剣。僕がこの異世界で目覚めたとき、手元にあった唯一の物だ。
「人間だった頃は、ただの平凡な大学生だったんだけどなぁ……。」
僕がこの世界に転生してから、すでに三年が経つ。
最初に気づいたのは、自分の身体が異様に軽いことだった。そして空を自由に飛べること。
そう、僕は人間ではなくアキアカネ(赤とんぼ)になっていたのだ。
初めは混乱した。だが、赤とんぼとしての日々を過ごしているうちに、ある事実に気づく。
この世界では「赤きもの」が特別な力を宿している。
赤とんぼも例外ではなく、その力に目をつけた王国は「アキアカネの力」を軍事利用しようとしていた。
その中心人物が、目の前で怒鳴っている少女、リュシエールだ。
彼女は赤き騎士団の一員。
僕を捕らえるどころか、「人間の姿を取り戻したいなら協力しろ」と無茶な取引を持ちかけてきたのだ。
「ほら、次だよ、飛びな!」
リュシエールが再び叫ぶ。僕は仕方なく羽ばたき、敵陣に突っ込む。
赤とんぼの身体では戦えないので、専ら僕の役目は索敵と攪乱だ。
ただ、赤とんぼにされたおかげで一つだけ覚えた「特技」がある。
それは、「時間を止めること」。
戦場で、赤い短剣を掲げると周囲の時間が一瞬だけ凍りつく。
「これ、便利だけどチートすぎない?」と初めは思ったが、
いざ使うと体力を大幅に消耗するので、そうでもない。
「リュシエール!」
敵の剣が彼女に迫る瞬間、僕は剣を掲げて時間を止めた。
わずかな隙間を見つけて彼女を引っ張り上げる。
「危なかったな。助けられるの、今回で何回目だっけ?」
「何よ、それ。恩着せがましい!」
リュシエールは頬を赤らめながら剣を握り直す。
だが彼女が一瞬見せた笑顔に、僕は気づいていた。
ああ、この世界で過ごすのも、悪くないかもしれない。
戦いが終わった後、空を飛びながらふと思う。
この身体での生活も、最初は戸惑ったけれど、悪くはない。
でも、いつか元の世界に戻れたとしても、この夕焼けの景色とリュシエールの声を忘れることはないだろう。
赤とんぼとしての僕の役割はまだ終わっていない。
夕焼けの空に溶け込むように、僕は再び羽ばたいた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる