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#107 非常戒厳令の世界

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「全員、口を閉じて姿勢を正せ!」  
町の広場に響く軍靴の音。錆びついたスピーカーからは、定刻通りの警告放送が流れている。私は列の中で目立たないように息を潜めた。  

転生してきたこの異世界は、ファンタジーとは程遠かった。王都は灰色の霧に包まれ、住民たちは皆、恐怖に囚われている。その理由は一つ。  

「非常戒厳令の下、全ての転生者は即時処刑される」 

元の世界で何が起きたのか、いまだに詳しくはわからない。ただ、転生者がこの国で一度災厄をもたらしたらしい。結果として、転生者は「厄災の種」とみなされ、発見次第粛清されるという法律が敷かれていた。  

幸運にも私は、この数年間、正体を隠し通して生き延びてきた。スキルも魔法も持たないごく平凡な農夫として過ごしてきたが、常に綱渡りのような日々だ。  

その日も、軍の巡察があった。彼らは転生者特有の「魂の歪み」を検知するため、最新型の魔道装置を引き連れていた。広場に集められた住民たち一人一人が装置の前を通らされる。  

「番号142。前へ出ろ」  

私の番が来た。心臓が鼓動を乱す。逃げることはできない。  

装置の前に立つと、奇妙な音がした。装置が赤く点滅する。兵士たちが眉をひそめ、こちらを睨みつけた。  

「……おい、これ、転生者反応か?」  

どうやら感知されたようだ。私は咄嗟に膝をつき、声を震わせた。  

「お待ちください! 私は転生者ではありません。ただの農夫です!」  

だが、彼らは聞く耳を持たない。数秒後、私は兵士たちに拘束され、鉄格子の檻へと押し込まれた。  

牢の中、私は自分の「力」を再確認することにした。この異世界に転生したとき、あるスキルが与えられていた。それは――「非常戒厳令の解除」。  

これが何を意味するか、ずっとわからなかった。しかし今、この異常な国で生きてきた経験から、ようやく気づいた。  

この世界そのものが、誰かの転生特典によって作られた「非常戒厳令システム」の中にある。しかも、そのシステムは自己防衛機能を持ち、外部から干渉できないよう設計されている。だが、唯一の例外が私の「解除」スキルだ。  

問題は、これを使えば私自身も「異物」とみなされ、即座に消去される可能性が高いということだ。  

だが、もう迷う暇はない。  

翌日、処刑場に連行される途中、私はスキルを発動した。  

「スキル発動:非常戒厳令の解除」  

目の前の世界が急速に崩れ始めた。空が裂け、地面が波打つ。兵士たちが叫び声を上げ、次々と消えていく。  

気づくと私は、真っ白な空間に立っていた。そこには一人の男がいた。  

「……やっと来たか」  

その男は、かつてこの世界を作った元転生者だった。そして彼は微笑んだまま、こう言った。  

「お前が新しい管理者だ。これからは好きにやれ」  

私は茫然と立ち尽くした。王国は解放された。しかし、私の手には、管理者権限が渡されていた。  

その瞬間、私は悟った。この世界で最も恐ろしいのは、非常戒厳令そのものではなく、それを支配する「力」を持つ者の孤独だということを。  

そして――新たな非常戒厳令が発令された……。  

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