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ノアキ光

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#100 異世界ブレーキ転生

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雨が降る夜、北村は高校からの帰宅途中、スクーターでカーブを曲がろうとした瞬間、急に黒猫が飛び出してきた。「危ない!」反射的に急ブレーキを踏み込む。
スリップしながら停止したが、次の瞬間、世界が白い光に包まれた。

目を開けると、北村は見知らぬ道端に立っていた。周囲には奇妙な装飾が施された馬車や、空中を浮遊する謎の生物が行き交っている。何よりも異様だったのは、自分の右足がペダルに変わっていたことだ。
「これは一体……?」と動揺していると、頭の中に声が響いた。

「汝、急ブレーキの神『ストップス』の選定を受けし者なり」

北村は困惑しながらも声の主に尋ねると、この世界には「交通神」という奇妙な信仰があり、急ブレーキ、加速、減速といった概念そのものが神格化されているという。特に急ブレーキは「世界の終わりを止める力」として崇拝されており、ペダル形態になった北村は、その宿命を背負う存在となったのだ。

村の長老によれば、この世界の終末は「無限加速」によるものだという。魔王の呪いにより、すべての物体が加速度的に速度を増しており、放置すれば全宇宙が破壊される。唯一の対抗策は、急ブレーキの力を持つ北村だけだった。

試しにペダルを踏み込むと、周囲の物体が瞬時に静止する。だが、力を使うたびに北村の体はペダル化が進行し、やがて完全に「踏む対象」としての存在に変わってしまうという。

最終決戦の時、北村は迷った。自分の人間性を捨てる覚悟はあるのか? だが、次の瞬間、黒猫の姿が脳裏に浮かぶ。
「あの時も急ブレーキで救えた命があった。今度もきっと――」

北村は全力でペダルを踏み込んだ。その瞬間、世界中の加速度がゼロになり、平穏が訪れた。しかし、北村自身は完全にペダル化し、地面に埋め込まれた。
村人たちはその場所を聖地と呼び、いつか「ブレーキの神」が新たに目覚める日を信じて祈り続けている。

奇妙なペダルの祠は、今も異世界に静かに存在しているという。
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