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#97 今日も悪の華が咲く
しおりを挟むその男、野上泰介は死んだ。いや、正確には「殺された」。街灯の下で濡れた刃を握る少女の顔が最後の記憶だった。
目を覚ますと、泰介は暗い洞窟の中にいた。腐臭漂う中、彼の足元に一輪の黒い花が咲いていた。
「死者よ、汝は選ばれた」
花から声がした。深淵から響くような、低く冷たい声だ。
「選ばれた?」
泰介はうろたえた。
「汝は我が力を持ち、異世界の住人となる。だが、その代償として、一つ契約を交わす必要がある」
契約――嫌な響きだ。だが、死んだはずの自分が再び目を覚まし、さらに新しい世界での生活を約束されるなら、悪い話ではない。
「契約とは?」
「汝の存在そのものが、悪の華を咲かせることだ。どんな地であろうと、汝の選択が世界を歪める。汝の歩む道に花は咲くが、それは誰かの破滅を伴う」
泰介は迷った。だが、再び死に戻るか、新たな世界で生きるか、選択肢は限られている。
「分かった。契約しよう」
黒い花が泰介の心臓に吸い込まれるようにして消えた瞬間、彼の目の前が光に包まれた。
次に目を開けたとき、泰介は異世界の街にいた。剣士、魔導士、商人たちが行き交う活気ある場所だ。彼の心は弾んだ。第二の人生がここから始まるのだと。
だが、街の片隅で一人の少女とぶつかったとき、その期待は崩れた。
「ごめんなさい!」
少女は怯えた顔で謝る。しかし、その顔には見覚えがあった――彼を刺した少女だ。
「お前……!」
泰介が叫ぶ前に、少女は剣士たちに追いかけられて逃げ出した。
泰介は呆然と立ち尽くしていたが、ふと足元を見ると、そこには再び黒い花が咲いていた。彼が歩く先々で、人々の間に争いが生まれ、街が不穏に包まれていく。そして必ず黒い花が咲く。
彼は悟った。自分が「悪の華」を咲かせる存在であることを。
「これが……契約の代償か」
それでも泰介は笑った。異世界の住人たちが不幸に陥る中、彼の心は不思議と満たされていく。悪が咲き誇るその中心で、彼は確かに生きていた。
そして、彼は再びあの少女を追い始めた。
彼女が自分を殺した理由を知るために。だが、そこにも黒い花が咲き乱れる未来しか待っていないことを泰介は知っていた。
悪の華は枯れない。
それは、彼の存在そのものだった。
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