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#92 繰り返される異様な王政復古
しおりを挟む目を覚ますと、僕は朽ち果てた王宮の玉座に座っていた。石造りの壁には苔が這い、天井のフレスコ画は色を失い、外から聞こえるのは遠くの荒野を吹き抜ける風の音だけ。だが、異様なことに、頭には「ここが僕の城である」という確信があった。
「目覚められましたか、陛下。」
重々しい声が響く。振り返ると、黒いローブをまとった老人が立っていた。背筋は曲がり、顔は深い皺に覆われているが、その目は奇妙に鋭い。
「僕が陛下? 一体どういうことだ?」
「ああ、記憶がまだ戻っていないのですね。この国は滅びて久しいのです。しかし、転生の術によって、陛下は今再びこの世に降臨なさった。」
転生? 滅びた国? 言葉の意味はわかるが、まるで現実感がない。僕はただの会社員だったはずだ。休日にネットで小説を読んで、缶ビールを飲む平凡な日々。なのに、何の因果でこんな所に?
老人は手に持った杖で床を叩き、一歩僕に近づいた。
「しかし、復古の時は訪れました。陛下が再びこの玉座に座られることで、我々の民もまた立ち上がるでしょう。」
僕は呆然とするばかりだったが、同時に体の奥底から奇妙な感覚が湧き上がってきた。
これは、懐かしさ……いや、もっと根源的なものだ。あたかも、この玉座が僕を呼び、受け入れているような感覚。
その瞬間、視界が歪んだ。僕の目の前に、異形のものが現れた。顔も手足も人間と似ているが、全体が灰色で粘土細工のように歪んでいる。そいつは僕の足元に跪き、歪んだ声で叫んだ。
「陛下、お帰りなさいませ……!」
僕の記憶が突然爆発するように戻ってきた。
「そうか……僕はこの国の王だった。」
それはただの事実ではない。僕がこの国を作り、統治し、そして滅ぼした。最後の瞬間、自らの意志で転生の儀式を行い、千年の眠りについたのだ。
「陛下、すべてを取り戻されましたか?」
老人が問いかける。
「ああ、戻ったとも。そしてわかった。この国が滅んだ理由もな。」
僕は玉座から立ち上がり、城の廃墟を見渡す。記憶が示す通りだ。この国は、僕が抱いた過剰な理想によって滅びた。民の幸福のため、すべてを犠牲にする政策を強行した結果、民も王も共に倒れたのだ。
だが、その時の僕とは違う。千年を超える眠りと転生を経て、今度こそ正しい王道を歩む覚悟がある。
「よし、王政復古を始めるぞ。」
老人と異形の者たちは一斉に頭を垂れた。
しかし、その瞬間、老人が微笑んだ。
「では、もう一度滅んでいただきましょう。」
何かが胸に突き刺さる感覚。目を見開いた僕の視界は、再び歪み始めた。
……そして、次に目を開けると、僕はまた玉座に座っていた。老人が微笑みながら言う。
「目覚められましたか、陛下。」
どうやら僕は、終わりなき復古の輪に囚われてしまったらしい――。
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