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#91 反転するソラリゼーションの世界
しおりを挟む(※ソラリゼーション=写真撮影で、露出が極端に過度になると、現像した画像の明暗が逆転している現象。反転現象)
写真部員の俺、桐谷圭介は廃墟の撮影中、奇妙な現象に遭遇した。シャッターを切った瞬間、景色が反転したのだ。白は黒に、影は光に。そして次の瞬間、俺は見知らぬ場所に立っていた。
足元には一面の銀色の草原。空は濃いオレンジに燃えている。まるで写真のソラリゼーション効果が現実化したような世界だった。驚く俺の前に現れたのは、半透明の少女だった。
「あなた、異世界の人でしょ?」
「そうみたいだな。ここはどこだ?」
「ここは『ソラリウム』。光と影の境界が壊れた世界よ。」
ソラリウム。奇妙な名前だが、その言葉が妙にしっくりきた。少女の名はリラ。彼女によれば、この世界ではすべてが反転する。昼夜も感情も、善悪さえも。
「でも、あなたには力があるみたい。これを直せるかも。」
「俺に? どうして?」
「そのカメラよ。」
俺は首にかけたカメラを見る。このカメラで撮ったものが、元の形に戻るらしい。つまり、俺はこの歪んだ世界を「現像」できるらしい。
リラとともに旅を始めた俺は、この世界の奇怪さに驚き続けた。黒い太陽のもとで咲く白い花、影しかない生物、言葉を発すると反対の意味になる会話……。
「ここにいたら、おかしくなりそうだな。」
「だから、この世界の人たちは感情を捨てたの。矛盾に飲まれないために。」
だが、俺は矛盾を恐れなかった。カメラのシャッターを切るたび、壊れた世界が正されていく。そして気づいた。俺の現像が進むにつれ、リラの姿が薄れていくことに。
「リラ、君も……反転してるのか?」
「ええ。この世界に縛られた存在だから。あなたが全てを元に戻せば、私は消える。」
俺は迷った。この世界を直せばリラを失う。でも、ここに残れば彼女も含め、全てが歪み続ける。
最後にリラは微笑んだ。
「ありがとう。あなたの決断に感謝するわ。」
俺はシャッターを押した。眩い光が走り、すべてが白に染まる。そして気づくと、俺は元の廃墟に戻っていた。
カメラの液晶を見ると、最後に撮った写真が映っていた。そこには笑顔のリラが写っていた。それは、どこかで彼女がまだ生きている証のように感じられた。
そして俺は知った。ソラリゼーションは、光と影をひっくり返すだけじゃない。喪失と希望を同時に写し出すものだと。
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