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#88 リラクゼーションサロン始めました
しおりを挟むある日のこと。ブラック企業に勤める俺は、疲労困憊で帰宅中にトラックと接触。気がつくと真っ白な空間に立っていた。
「あなたは選ばれました」
目の前に現れたのは、フワフワした雲みたいな見た目の神様だ。いや、もう少し神っぽくしてほしいんだが。
「あなたの魂には癒しの素質があります! 新しい世界でリラクゼーションを広め、人々を救うのです!」
癒しの素質? 俺が? ブラック企業の社畜が? でも転生ってやつ、悪くないかも。
神様が言うには、異世界は緊張とストレスでパンパン。過労死なんて日常茶飯事らしい。
俺は癒し系スキルを与えられ、伝説のリラクゼーションサロン「癒しの間」を開くことになった。
転生初日。俺は小さな村に降り立ち、いかにも異世界らしいボロい小屋を与えられた。
「ここがお前のサロンだ!」
と村長。いや、これ廃墟だろ。
とりあえず魔法で掃除したら、なんかいい感じになった。便利だな魔法。でも問題は中身だ。何をどうやればリラクゼーションになるのか全くわからん。
「よう兄ちゃん、ここで癒しがもらえるって聞いたぜ!」
現れたのはゴリゴリの戦士。一見クマを退治してそうだが、目の下にもクマができている。
「えっと……とりあえず横になってくれ」
俺は肩を揉むことにした。
すると、
「うぉぉぉぉぉ! なんだこれ! 肩が軽い! 魔法か!?」
いや、ただの指圧なんだが。
次の日から噂が噂を呼び、村中の人々が押し寄せるようになった。農民、商人、果ては魔王の側近まで。
「勇者の肩こりが酷すぎて剣が持てない! なんとかしてくれ!」
勇者まで!? しかも剣が持てないって致命的すぎないか!?
俺は勇者の肩などをあちこち揉みながら思った。
「この世界の奴ら、何でこんなに疲れてるんだよ!」
勇者は目を閉じながらボソッと答える。
「そりゃあ、俺たち毎日魔王倒せ倒せってプレッシャー半端ねぇからな……。あと、パーティーの人間関係も地味にストレスなんだよ」
異世界って、意外とブラックだな。
それから数年、俺のサロンは異世界随一の癒しスポットになり、俺は「リラクゼーションの神」と呼ばれるようになった。
ちなみに魔王も肩こりで訪れ、ついでに勇者と和解した。
今日も俺は揉み続ける。戦士の背中、魔法使いの腰、そして村人の心を。
俺、異世界で意外と幸せかもしれない。
自身も何か癒されていた……。
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