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#87 転生したら恥概念だった

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会社からの帰り道、主人公・佐々木翔太はトラックに撥ねられた――というよくある異世界転生の導入で物語が幕を開ける。
目を覚ますと、周囲には見たこともない幻想的な風景が広がっていた。青い空に浮かぶ二つの月、風に揺れる金色の草原。そして彼の前に現れたのは、ローブを纏った謎の老人。

「ようこそ、勇者よ。この異世界は今、魔王による圧政に苦しんでいる。君には特別な能力を与えるから、どうか魔王を倒してくれ!」

王道の展開だ。しかし、翔太は何かおかしいことに気づいた。身体が動かない。いや、そもそも身体そのものがないのだ。  

「え、僕の身体はどこに?」

老人は申し訳なさそうに言った。

「それが……君の魂が転生する際、少し手違いがあってな。この世界の概念そのものになってしまったのだ。」

「概念って……僕は何になったんですか?」

老人は咳払いをした。

「君はこの世界における『恥』の概念だ。」

翔太は言葉を失った。  

気づけば翔太は城の中にいた――正確には、彼の「存在」が城全体に漂っていた。騎士たちが訓練場で転んだり、間違って敵に向かう矢を自分の味方に放ったりするたび、彼の中に「恥じる感情」が流れ込んでくる。どんなに恥ずかしい状況でも、彼はそれを受け止めるしかなかった。  

「いや、これ辛すぎるでしょ!」  

ある日、城の姫・リリアが魔王討伐の作戦会議中に噛みまくり、全員の視線が彼女に集中する。リリアの心の中に湧き上がる「恥」を翔太は感じ取った。その瞬間、彼は悟った。自分がただの概念ではなく、この世界で何か役に立てるのではないかと。

翔太はリリアに語りかけた。

「君の恥は、強さになるよ。」

「だ、誰?」リリアは驚いたが、翔太の声に耳を傾けた。
「失敗したって、恥ずかしくたって、それを乗り越えれば誰よりも強くなれる。だから恥ずかしさを恐れないで。」

リリアはその言葉を胸に刻み、何と自身が魔王討伐の旅に出る決意をした。

その後、リリアは翔太――つまり「恥」の力を借りて、失敗を恐れず突き進んだ。そして人々は次第に「恥を克服すること」が強さだと知るようになった。魔王を倒したとき、リリアは言った。

「恥ずかしい過去があったからこそ、私はここまで来られた。」

翔太は少しだけ満足した。彼がこの世界で果たすべき役割を終えた瞬間、彼の存在は消え去り、別の次元へと飛ばされる――またしても転生が始まったのだ。

次に目を覚ましたとき、彼は誰かの脳内に囁く声になっていた。今度は「後悔」の概念だ。

「これわざとやってるだろ。勘弁してくれよ!」  

翔太の叫びは、次の異世界へと虚しく響くのだった……。  
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