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#86 無鉄砲な突撃
しおりを挟む俺は、いわゆるブラック企業で消耗するただのサラリーマン。毎日寝不足、昼飯もろくに食えないで働き詰め。そんな俺が異世界転生することになったのは、会社帰りに無理やり頼まれた残業のせいで深夜終電を逃し、疲労困憊のまま歩道橋でつまずいてそのまま転げ落ちたからだった。
気がつくと、俺は森の中に立っていた。どうやら本当に転生したらしい。周囲には見たこともない植物が生い茂り、遠くにはドラゴンの影。あたりを歩くと、俺は奇妙な村にたどり着いた。薄暗い村だが、人々は俺を見るやいなや「あの伝説の勇者様が!」と歓声をあげた。
どうやら、この世界の人々にとって俺は伝説の勇者の生まれ変わりらしい。悪の魔王を倒すために召喚されたのだとか。しかも、村の長老いわく「おぬしには無敵の武器『無鉄砲』が授けられている」と言うではないか。
無鉄砲? まさか鉄砲のような武器があるのか? 期待に胸を膨らませ、俺は渡されたその「無鉄砲」を手に取る。しかし、手にして驚いた。目の前にあるのは……ただの木の棒だ。
「えっ、これが無鉄砲?」
思わず口に出してしまう。
「そうじゃ! 勇者よ、それは無鉄砲! 強き意志と大胆不敵なる心さえあれば、どんな敵も打ち倒すことができるのじゃ!」
長老の言葉に唖然とする俺。まさか、無鉄砲(無謀)にも木の棒で魔王を撃破しなければいけないだなんて。
結局、物理的には何の力もないただの木の棒を渡された俺は、無鉄砲を信じて魔王城に突撃する羽目に。
案の定、城を守る怪物たちに囲まれ、一瞬で叩きのめされた。無鉄砲なんて無茶な武器、やはり通用しないじゃないか!
しかし、目が覚めるとまた元の村の森に戻っていた。
「なんだ、生き返ったのか?」
村人たちはまたしても俺を勇者として崇め、同じように「魔王を倒せ」と叫ぶ。再び無鉄砲を渡され、再挑戦。無鉄砲一本で向かった結果、やはり失敗し、死んではまた森に戻る。この無限ループのような状況が数え切れないほど続く。
もうダメだ……とある時、俺はついに気づいてしまった。この「無鉄砲」は、俺を何度も蘇生させて無謀に戦わせるための呪いだったのだ。俺の勇気や無鉄砲さを称えるフリをして、実は村人たちは俺をただの「魔王との戦い用の弾丸」にしていただけだった。
俺は気づいてしまった。彼らは俺を利用して、己の無謀な戦いを果たしていただけなのだと。
「無鉄砲……それは俺を永遠に死ぬことなく戦い続けさせる、地獄のような転生ループだったのか!」
そして俺は今も、無鉄砲を手にして魔王城に突撃し続ける。
無鉄砲な勇気は、時に自らを終わりのない戦いに縛りつける――。
そして、村人たちが望むのは、ただ戦いの終わりのないエンタメだったのだ!
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