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#85 ランダムに翻るスキル
しおりを挟む僕が気づいたとき、目の前には見知らぬ街の景色が広がっていた。無数の煙突から立ち上る煙、石畳の道路を走る馬車、そして周囲を行き交う人々の服装がまるで中世のようだ。ああ、やってしまった――これが噂の「異世界転生」ってやつだろうか?
「おお、やっと目が覚めたのか?」
頭を抱えていた僕の前に、一人の老人が立っていた。長い髭を蓄えたその顔には、何やら安堵の表情が浮かんでいる。どうやら僕を看病していたらしい。老人は温かいスープを手渡してくれる。
「これを飲んで、体力を回復させなさい」
おそるおそる飲んでみると、思いのほかおいしい。
「ところで、ここは一体……?」
「ここはファルデンの街じゃ。お主、どうやら別の世界から来たようじゃが、何か使命を果たさねばならんのじゃろう?」
よくわからないが、異世界転生に「使命」はつきものだ。きっと僕も何か壮大な運命を背負ってここに送り込まれたのだろう。ワクワクしつつ街を探索し始めると、ある看板が目に入った。
「――“転生支援所”?」
好奇心にかられて入ってみると、受付には驚いたことにパソコンのようなものが置かれており、綺麗な制服姿の女性がにこやかに対応してくれる。
「ようこそ、転生支援所へ! こちらでは異世界での暮らしに必要なガイドブックや支援物資を提供しています。転生初回特典として、好きなスキルを一つ選べますが、いかがですか?」
スキル! ライトノベルでよく見るアレだ。僕は目を輝かせてカタログを眺め、ふと「翻る(ひるがえる)」という妙なスキルが目にとまった。説明にはこう書かれている。
「翻る(ひるがえる)」
選択した行動が一度だけ逆転する能力。
注意:何が逆転するかは完全にランダムです。
普通なら「無敵」や「強運」を選ぶところだが、この不確実なスキルに心惹かれるものがあった。妙に面白そうだ。
「これでお願いします!」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、僕の選択に従いスキルを付与してくれた。
それから数日、スキルを試すため冒険を始めるも、「翻る」はまったく役に立たなかった。行動の結果が逆転すると言っても、ほとんど役に立たないタイミングで発動し、落としたパンが表面を下に落ちたり、宝箱を開けたら罠が外れて自分にかかったりするばかり。期待していた「異世界無双」とは程遠い……。
「これじゃ、ただの厄介な運だよ……」
そんな不満を抱えつつ、ある日魔王討伐の依頼を受けることになった。魔王の城に乗り込んでいよいよ対峙した瞬間、魔王が不敵に笑いながらこう言った。
「愚かなる者よ、貴様を転生させたのはこの私だ! さあ、死ぬがいい!」
絶体絶命。だが、その時ふと僕のスキルが発動した感覚がした。「翻る」。行動が逆転すると、僕の人生に何が起こるのだろう?
すると、次の瞬間、魔王が動きを止め、驚愕の表情で自分の胸を押さえたかと思うと、そのまま力尽きて崩れ落ちた。
「なんだ……? どうして……?」
支援所の女性が言っていた「何が逆転するかは完全にランダム」という言葉が頭をよぎった。そして僕はすぐに気づいた。転生した僕の「死ぬ運命」……それ自体が翻ったのだ。
そして、周囲に光が満ち、僕は気を失った。
目を覚ますと、なんと僕は現実世界の自室に戻っていた。スマホが鳴っており、画面にはこう表示されている。
「おかえりなさい、転生者さま。また異世界に挑戦されますか?」
どうやら「転生」はループするらしい。
でも……僕は静かにスマホをスリープモードにしてベッドに倒れ込んだ。
異世界での冒険は二度としたくない、もう十分だ。
当初のワクワク感は翻っていた――。
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