🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#81 転生したら無性生殖を得た話

異世界に転生した青年アキラは、目を覚ますと見知らぬ森にいた。手を見ると、自分の姿が人間ではなく、どこか柔らかい透明な体の塊のようになっている。彼が転生したのは、スライムに似た生物だったのだ。

「これが俺の……新しい体？」

言葉はないが、意識ははっきりしている。アキラはまず動くことから始めた。意外に簡単に前に進めるが、その体の中に漂う何かを感じた。なんとなく察し、気を集中してみると、自分と同じ小さな塊が次々と現れ始める。

「え？　これ……まさか」

彼は驚いた。無性生殖という概念は知っていたが、実際に自分がそうした力を持つ存在になるとは思っていなかった。それは彼が意識を向けるだけで、瞬く間に自らの分身を生み出す力であり、自分と同じスライムをどんどん増やすことができるのだ。

やがて、アキラは分身たちと意思疎通ができることに気付いた。
「あそこに何か食べ物があるぞ」「あの木の陰に敵がいる」
など、分身からの情報が彼の意識に直接届く。

日が経つにつれて、彼は周囲の生態系を支配する存在へと変わっていった。分身を巧みに操作し、森の資源を効率よく利用して自らの群れを広げていく。狩りも、採集も、全て分身が行うため、彼は座ったままでも一種の「王」のような役割を担えるようになっていた。

ある日、異世界の冒険者たちが彼の領域に踏み込んできた。彼らが「巨大スライム」として噂を耳にしていた存在が、このアキラの群れだったのだ。

冒険者のひとりが仲間に叫ぶ。
「こいつ、ただのスライムじゃない！　数が……無限に増えてるぞ！」

アキラは冷静に分身たちを指示し、冒険者たちを囲んでいった。そして最後に、彼の意思が分身を通じて冒険者に伝わった。

「ここは俺の領域だ。下がれ。」

その威圧感に、冒険者たちは恐怖に駆られ、すぐに森から逃げ去った。

アキラは安堵しつつも、少しの寂しさを感じていた。だが、彼は決意する。いつか、同じように意志を持つ存在と出会うことを願いながら、この森の主として君臨し続ける道を選んだのだ。

そしてその日も、彼は静かに新たな分身を生み出し、夜の森を見守るのだった。