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#79 良心は告げる
しおりを挟む目を開けると、俺は知らない天井を見上げていた。まるで中世の城のような石造りの壁に囲まれ、淡いランプが温かい光を放っている。身体を起こすと、豪奢なベッドに横たわっている自分の姿が映った。どうやら異世界に転生したらしい。
だが、不思議な感覚があった。この身体には、俺が今まで生きてきた人生の記憶と共に「良心」そのものが宿っている。自分の行動が善であるか、悪であるかを鋭く告げる“何か”が心の奥底に生まれていたのだ。
城のドアが開き、やや緊張した様子の若い騎士が俺に近づいてきた。
「勇者様、どうかお力をお貸しください。闇の軍勢がこの王国に迫っているのです」
俺は彼をじっと見つめる。異世界の住人たちは俺を「勇者」として期待しているようだ。だが、俺の心の中の“良心”は静かに問いかける。
——本当に、彼らの言う「闇の軍勢」とは、悪なのか?
「闇の軍勢って、具体的にどんな存在なんだ?」
俺は騎士に尋ねた。
「彼らは醜く、恐ろしく、我らを滅ぼそうとしています。だから、滅ぼすべき敵なのです」
騎士の目は確かに恐怖で満たされている。だがその瞬間、俺の心に鋭い痛みが走った。この痛みは、心の“良心”が反応しているのだと直感的に理解した。
「待て。俺はまだ、何も知らない」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。
その晩、俺は城を抜け出し、闇の軍勢の領域へと一人で足を踏み入れた。そして、そこで出会ったのは、幼い少女のような姿をした闇の王だった。彼女の目は澄んでいて、どこか哀しげな光を宿している。
「どうして人々は君を敵だと思うんだ?」
「……私たちはただ、存在するだけ。人々が私たちを見て、恐れるのです。恐怖はやがて憎しみとなり、憎しみは戦争を呼ぶ。私たちはただ、生きたいだけなのに」
その言葉を聞いた瞬間、心の中の“良心”が強烈に反応した。ここにいるのはただの少女であり、彼女たちを滅ぼすことは、果たして正義なのか?
城に戻ると、俺は国王に直談判した。
「闇の軍勢は、敵じゃない。彼らも生きているだけだ」
「何を言うか! 彼らは我らの敵であり、滅ぼすべき存在なのだ!」
だが俺は冷静に言葉を返す。
「いや、彼らを攻撃するのはただの偏見に過ぎない。俺の心の中の“良心”が、それが誤りであると告げている」
そして、俺は彼らの中立を守るため、闇の軍勢と人間の王国の間で調停者となる道を選んだ。
——人々が敵だと信じていた存在も、違う視点で見ればまた違った姿が浮かび上がる。そして、そこにこそ本当の「良心」があるのだ。
転生して得たこの“良心”が、異世界の未来を変えていく力となる――。
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