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#77 狂犬病の勇者

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 目を覚ますと、俺は犬になっていた。しかも、この異世界には「魔物の疫病」という厄介な病が蔓延している。何でも、人間がかかると死を迎え、動物がかかると狂暴化する病らしい。

「おい、起きろ! この『狂犬の勇者』が!」

 声の方を振り返ると、長耳をもつエルフの少年が俺をじっと見ていた。どうやら、彼は俺を召喚したらしい。「狂犬の勇者」と呼ばれているあたり、妙な嫌な予感がする。

「狂犬……ってことは、俺がかかってるのか?」

「そうだとも! お前は魔物の疫病にかかり、狂犬のごとき力を持つ勇者として生まれ変わったのだ!」

 エルフ少年はどうやら俺の力を見込んで、村を襲う魔物を退治してほしいらしい。しかし、俺は自分が病にかかっていることに気づくと、なんとも言えぬ衝動が込み上げてきた。人間に戻るためにも、やるしかないのか。

「いいだろう、協力してやる。ただし、お前が危険な目にあっても知らないぞ」

 俺は牙をむき出しにし、村へと進み出た。すると、疫病に感染した大きなオオカミが目の前に現れた。狂ったような眼でこちらを睨みつける。だが、俺もまた感染者だ。気が合うかと思ったが、逆に血が沸き立ち、吠えたくなる。

「ガルルル……来いよ!」

 オオカミに飛びかかり、爪を立て、噛みついた。感染者同士の戦いは、まさに生死をかけた狂犬のようだった。激闘の末、俺は相手を仕留めた。体には血が滴り、視界が赤く染まっていく。

「ありがとう……狂犬の勇者」

 エルフ少年の礼が、どこか遠くで聞こえた。だが、俺はもう、理性を失っていく。感染が広がり、完全に犬としての本能に支配されてしまうのだろう。それでも、どこかで俺は吠え続ける。

「ガウッ、ガルルル……!」

闇夜に、狂犬の遠吠えが響き渡った――。
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