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#76 ブードゥー教に望みをかけた末路

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「君の望みを叶えよう」

泥と血の混ざったような土臭い匂いが鼻を突き、仄暗い密林の中で彼の声が響いた。

私の目の前には奇妙な姿をした男が立っていた。骨でできた杖を持ち、顔には白いペイント。まるで骸骨が歩いているかのようだ。彼は「ブードゥー教の神官」だと名乗り、自分を「バロン・サムディ」と名乗った。

「君は死んだのだよ。だが、望むなら異世界に転生させてやろう」
とバロンは笑った。
私は目を覚ました時、交通事故の瞬間だったことを思い出した。痛みも恐怖も一瞬のこと。すべてがぼやけたまま、気が付けばこの薄暗い場所にいる。

「望みって……何を?」

「金か、力か、あるいは永遠の命か。それとも愛か?」

不気味な笑みを浮かべる彼の顔を見て、私は少し戸惑った。しかし、命をもう一度手に入れるチャンスだと思った。新しい世界で、今度こそ成功するために生まれ変わりたい――それが私の望みだった。

「力が欲しい」と私は言った。
「新しい世界で、誰にも負けない力を」

「いいだろう、望みは叶えてやろう」

バロン・サムディは杖を振り、何かぶつぶつと呪文を唱えた。その瞬間、私の視界がぐにゃりと歪み、目を開けた時には別の場所に立っていた。

そこは異世界だった。青く輝く大地、赤い月が空に浮かび、見たこともない生き物たちが行き交う不思議な場所。周囲の目を引くのは、私の異様な姿――巨大な体に黒い鎧、まるで魔物のような顔。

力がみなぎるのを感じる。だがその力は、どこか狂気じみていて、私の心を侵してくるようだ。

「どうだね、気に入ったか?」
耳元でバロンの声が囁いた。どうやら彼の姿も異世界についてきたらしい。

「これは……違う……俺が望んだ力じゃ……」

「そうかね?」バロンは肩をすくめて笑った。
「君は『力』を望んだ。それがどんなものか、よく考えなかったんじゃないか?」

ふと気がつくと、私の周囲には異世界の人々が集まり、恐怖の表情で私を見つめていた。彼らが次々と逃げ出す光景を眺めて、私は自分の手を見る。それは血に濡れていた。何も思い出せないが、この手が人々を屠ったことだけはわかる。

「それが、君の力の代償さ」バロンが言った。
「生まれ変わりはしたが、君は『魔物』となったのさ。異世界で恐怖され、狩られ、憎まれる存在だ」

私の体は自然と笑い声を上げた。力がある。だがそれは破壊と殺戮を求める暴力的なもの。理性をかき消すほどの凄まじい力だ。

異世界で手に入れた力。それは私の望んだものではなく、どこか歪んだ願いの形だった。

「この世界で君は、終わりなき孤独の中で生きるんだよ。これが君の転生の『報酬』だ。気に入ったかな?」
バロン・サムディの声は風のように薄れていったが、彼の不気味な笑みだけは目に焼き付いて離れない。

私は異世界に「力」として転生したが、それは私の望みの果ての「黄昏の夢」に過ぎなかった。
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