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#73 異世界に計画通り
しおりを挟む俺はかつて日本で平凡なサラリーマンだったが、突如トラックに撥ねられ、気づけば見知らぬ森の中で目覚めていた。どうやら俺は「異世界転生」というやつを遂げたらしい。すでに状況を把握した俺は、心中で呟く。
「……計画通りだ」
実を言うと、俺は異世界転生を夢見ていた。仕事も辞め、資金を貯め、奇跡が起こるのを待つ日々。転生を可能にする「特異運命の秘法」を手に入れるため、あらゆる転生者たちの文献を読み漁り、確率を上げるために特定の手順まで研究した。そして、今日。ようやくその夢が実現したのだ。
目の前には、金髪の魔法少女らしき少女が立っている。彼女は俺を見て、不安そうに声をかけてきた。
「……あの、あなた、もしかして『勇者様』ですか?」
ふふん、分かっている。異世界に転生して最初に出会う人物は、未来の仲間か、あるいは大きな運命に関わる存在に決まっている。そして俺は、この状況すらも計画していた。
「その通りだ。俺こそが勇者、そして君の運命を共にする者だ」
俺は真面目な顔で少女に告げ、早速信頼を勝ち取ろうとする。だが、ここで彼女は意外な言葉を口にした。
「そ、そうですか……じゃあ、勇者様の中でも『予備選定者』ですね」
「……予備?」
「ええ、実は真の勇者様は別の方がいらっしゃるのですが、万一の場合に備えて何人か候補が選ばれているんです。で、あなたはその予備の……えっと、補欠というか……」
俺は愕然とした。予備? そんな話は聞いていない。俺は、綿密な計画を立て、完璧な異世界転生を成し遂げるはずだったのだ。だが、彼女の言葉は続く。
「まあ、役に立てば報酬は出ますから。たぶん、『先行戦士』として少しずつでも……」
「……先行戦士って、どういうことだ?」
「この世界、転生者の競争が激しくて……一種のサバイバルなんですよ。真の勇者様が登場するまで、なるべく敵の注意を引いていただけると助かります」
俺は計画を再確認し、心の奥で叫んだ。これは俺が思い描いていた「計画」ではない。だが、いったんこの異世界に来てしまった以上、逃げ場はない。
「ま、まあ……予備でもなんでも、任せてくれ」
こうして俺は、「先行戦士」として数多くの戦場を駆け回ることになった。真の勇者の登場を待ちながら、敵の強大な魔物を倒し、彼らの注意を引くのが俺の役目。
一戦終えるごとに、俺は呟く。
「……計画通りだ」
そう、自分に言い聞かせるのだ。この激しい戦場で生き抜くため、そしていつか本当の栄光をつかむため、俺は自分に言い聞かせ続けるしかなかった。
ところが、ある日。次の勇者が出現したという知らせを耳にした。すでに彼は人々から賞賛を浴び、俺が片付けた敵の背後に潜む真の強敵を一撃で倒したのだ。
「これでようやく……俺の役目も終わりか」
そう思っていた矢先、少女が駆け寄ってきた。
「すみません! 実は真の勇者様、もう一人候補が現れて……やっぱり予備の方は、もう少し残っていただけると助かります!」
俺はその瞬間、悟った。この異世界で俺の計画通りにいく日は、永遠に来ないのだと。
それでも俺は、薄笑いを浮かべ、再び戦場に向かう。
「……計画通りだ」
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