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#72 明日は我が身

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平凡な大学生の斎藤明(あきら)は、ある日、酔った勢いで深夜の路地裏を歩いていると、いきなり背後から叫び声が聞こえた。
「お前が転生者か!」

振り返ると、真っ赤なローブをまとった男が剣を構えていた。まるでファンタジーの世界から飛び出してきたような風貌だ。

「いや、ちょっと待て、俺はただの大学生だ!」
と叫ぶ間もなく、男の剣が斎藤に振り下ろされた。――が、奇妙なことが起こった。剣が触れる瞬間、斎藤はふわりと宙に浮き、気がつくと異世界のような草原に立っていた。

目の前には、驚いた表情の美しい騎士たちが並んでいる。
斎藤の姿を見て一斉にひざまずき、
「勇者様、どうか我が国をお救いください!」
と口々に頼み込む。

「いやいや、なんで俺が勇者なんだよ?」
戸惑う斎藤に、騎士たちは口々に説明する。どうやらこの世界では、伝説の「勇者」として異世界から来た者が国を救うという言い伝えがあるらしい。困惑しつつも、帰る方法も分からない彼は、しばらくこの世界に留まるしかなさそうだった。

しぶしぶ斎藤は、「勇者」としての生活を始めた。勇者専用の宿に住み、豪華な食事が毎晩提供される。
「これが異世界転生の醍醐味か……」と最初は浮かれていたが、数日も経たないうちに気づく。住人たちが自分の部屋の前で何かを念仏のように唱え、奇妙な視線を送っていることに。

ある夜、斎藤は宿の料理長に声をかけた。
「最近、皆の目が怖いんだが……」

料理長は重苦しい表情で答える。
「勇者様、実は……この世界では、一定期間が過ぎると『新たな勇者』が現れると言われております。そして、前任の勇者はその役目を終え、神に召されるのです。」

斎藤の背筋が凍りつく。
「つまり、次の勇者が来たら、俺は……」

料理長は無言でうなずいた。

その日から、斎藤は全力で逃亡生活を始めることにした。
「異世界転生で憧れの勇者になったはずが、明日は我が身死の恐怖じゃないか!」
息を切らしながら、彼は逃げ続ける。

そして最後に、斎藤はふと自嘲するように呟いた。
「結局、異世界でも俺はただの駆け足の大学生か……」

斎藤がそう呟いたとき、背後から次の「勇者」を迎えるための号令が聞こえた――。
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