🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#70 火事場の馬鹿力

異世界に転生してから数ヶ月が経った。俺の名はエルシオ。前の世界では平凡なサラリーマンだったが、今は「魔法士」なる立派な肩書きを持つ。だが、魔法はうまく使えないし、戦闘能力も大したことはない。そんな俺には、ただ一つ特異な能力がある。それは「火事場の馬鹿力」だ。

元の世界では、少々の緊急事態に直面すると、普段の能力を遥かに超えた力を発揮することができた。しかし、異世界ではその力がどのように発揮されるか、いまだに不明だった。

ある日のこと、森の中を探索していると、突然、巨大なモンスターに遭遇した。名前も知らぬその獣は、二頭身の体躯に鋭い牙を持ち、まるで恐竜のような風貌をしている。周囲の仲間たちは怯えて後ずさり、俺も心の底から恐怖を感じた。

「くそ、こんなところで死ぬわけにはいかない！」

その瞬間、心の中で何かが弾けた。なぜか記憶の片隅にあった「火事場の馬鹿力」が甦り、俺の体が異常に熱くなり、血が沸騰するような感覚が広がった。俺は無意識に自分の力を引き出し、目の前のモンスターに突進した。

「この野郎、喰らえ！」

一撃でそのモンスターの顎をぶん殴ると、驚くことにその大きな体がふっと軽くなり、倒れ込んだ。周囲の仲間たちは目を丸くして、口をあんぐりと開けた。俺自身も驚きだ。自分でも信じられないほどの力が出たのだ。

だが、喜んでいる暇はなかった。倒れたモンスターの周囲には、その仲間たちが次々と現れ、俺に襲い掛かってきたからだ。

「おい、何をするんだ！　もう倒したってのに！」

思わず叫んだその瞬間、またもや火事場の馬鹿力が発動した。俺は周囲のモンスターたちを一掃するために、無意識に発動した魔法を使った。炎が手のひらから湧き出し、モンスターたちを焼き尽くした。

「ギャアアア！」

周囲の仲間たちの驚愕した叫び声が響く。俺は自分の力に圧倒され、だが同時に興奮を覚えた。この力を使うことで、俺は異世界で名を馳せることができるかもしれないと思った。

しかし、その後のことが厄介だった。仲間たちが俺を「英雄」と呼び、持ち上げ始めたのだ。急に自分が英雄になってしまうなんて、これまでの人生で考えたこともなかった。俺はただの平凡なサラリーマンだったのに。

その後、村に帰ると、歓迎の宴が開かれ、酒が振る舞われた。俺は酔っ払ってしまい、また無意識に火事場の馬鹿力が発動。宴会場が火事になりかけたのだ。

「なんだ、またやっちまった！」

そんな俺の心の声を無視して、仲間たちは「さすが英雄！　火を使う魔法士だ！」と喝采を送る。

俺は心の中で「これはどうやら厄介なことになりそうだ」と感じつつも、少しだけ誇らしい気持ちを抱いていた。結局、火事場の馬鹿力は俺の新しい日常の一部になってしまったのだ。

次第に、周囲の人々は俺のことを「炎の英雄」と呼び、異世界での生活はまるで夢のように華やかになっていった。
だが、俺にとっては、それはまた新たな火事場の始まりに過ぎなかった。果たして、俺の異世界での運命はどこへ向かうのか、それは今後の物語で明らかになるのだろう。