🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#64 蝉（セミ）

真夏の午後、俺は転生して異世界「リヴィエールの森」にいた。ここではなぜか、蝉が夜にも鳴く。そしてその音色が、妙に心をざわつかせる。

「この音、まるで呼んでいるみたいだな……」

仲間たちは早々に眠りについたが、俺はどうにも眠れず、森の奥へと足を運んだ。闇夜の中、蝉の声がますます大きくなる。だんだんと耳をつんざくような音が増していき、心臓がバクバクと鳴る。

「お前か……俺を呼んでいるのは」

森の最奥、そこには巨大な古代の木がそびえ立ち、その周りを無数の蝉が群れ成していた。異世界の蝉は、俺の知るものとは違って、羽が透き通り、青白く光っている。

その時、突然一匹の蝉が俺の肩に止まり、小さな声で囁いた。

「……戻りたいのだろう？」

「な、なんだお前……！」

「この森にいる全ての蝉は、かつて別の世界から来た者たちだ。帰れない者たちが集まり、こうしてまた声を上げ続けるのさ」

俺は背筋が凍りつくのを感じた。まさか、この蝉たちが元々人間だったなんて……！

「待て、俺もそんな風になるのか？」

蝉は、微笑むように翅を震わせた。

「さあ、どうだろうな……。戻りたい気持ちが強いほど、蝉になりやすいと言われている」

突然、森中の蝉たちが一斉に鳴き出した。その声は、まるで俺の名前を呼ぶかのように響き渡る。

「やめろ……やめてくれ！」

だが、森の中に俺の叫びは吸い込まれていくだけだった。
そしてやがて俺も……。

蝉たちは夜通し鳴き続ける。その声は、異世界を彷徨い続ける者たちの、帰りたいと願う叫びなのかもしれない。

そして今日もまた、異世界には夜の蝉の声が響く。

帰りを望むほど、帰れなくなる――。