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#61 目薬王国
しおりを挟む俺の名前はタカシ。
ある日仕事中に、気づいたときには異世界に転生していた。目の前には美しい宮殿と、無数の人々が俺を歓迎するように集まっていた。どうやら、俺は「目薬の王国」に召喚されたらしい。
「ようこそ、救世主様!」
王女リヴィアが俺に頭を下げる。彼女は美しい金髪と、透き通るような青い瞳を持つ女性だ。なんでも、この国では「目の不調」が最大の問題で、救世主はそれを治す方法を持っているという。
「目薬を持っている者が、この国を救うのです!」
……目薬? そう言えば、転生前のポケットに目薬が入っていたことを思い出した。日々、パソコン作業で疲れた目を癒すために常備していたものだが、まさかこれが異世界で役立つとは。
俺はその目薬を取り出し、リヴィアに差し出した。
「これが……救世主様の力?」
リヴィアは恐る恐る目薬を手に取ると、一滴をその大きな青い瞳に垂らした。
すると――
「きゃあっ!」
リヴィアの目が突然眩い光を放ち、周囲の人々が驚いて後ずさりした。彼女の視界がどんどんクリアになり、まるで世界が変わったかのようだ。
「こんなに……こんなにも鮮明に見えるなんて!」
彼女は目を見開いて、歓喜の声を上げた。人々も次々に目薬を使いたがり、国中が騒然となった。
だが、異変はここから始まった。目薬を使った者たちが次々と「未来」を見始めたのだ。しかも、未来の厄災まで予知できるようになったというのだ。火山の噴火や大洪水、さらには戦争までもが見えるという。
「救世主様、この力で私たちは何をすべきでしょう?」
リヴィアが問いかけるが、俺には答えられなかった。目薬が未来を見せるなんて、そんなことは俺の世界では起こりえない。だが、この国ではそれが現実になっている。人々は未来を恐れ、次第に混乱と恐怖に陥っていった。
「全ての未来を避けることは不可能です! この目薬を使うことで、未来が変わってしまう!」
王国中で混乱が広がる中、俺は一つの結論にたどり着いた。
「もう、この目薬を使ってはいけない……」
俺はそう決意し、目薬を封印しようとしたその瞬間、王女リヴィアが泣き崩れながら言った。
「救世主様、どうかお助けを! 私にはもう、見えてしまうのです……この国が滅びる未来が!」
俺は思わずため息をつき、ポケットから予備の目薬を取り出して言った。
「ごめん、リヴィア……実はこれ、ただの市販の目薬なんだ。俺は未来を見ることなんてできないし、未来を変える力も持っていない。多分、これは偶然だ。」
その瞬間、世界が揺らぎ、俺は目を覚ました。目の前には、オフィスのデスクとパソコン。どうやら、うたた寝をしていただけだったらしい。
「ああ、なんだ、夢か……」
俺は疲れた目をこすり、いつもの目薬を一滴垂らした。
なぜか中身がずいぶん減っていた……。
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