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#58 目覚めたらシャキシャキレタスだった件
しおりを挟む目を覚ましたら、俺はレタスだった。
シャキシャキとした感触が体中に広がり、自分が青々とした葉っぱだと理解するのに数秒を要した。そこにはトマトやキュウリ、さらにはドレッシングのような液体が周囲に漂っている。
「ここはどこだ……?」
と、俺(レタス)は心の中でつぶやく。
不思議なことに、この異世界の住人たちはみな野菜だった。しかも、彼らはただの野菜ではない。「サラダの具材」として自分たちがどう生き残るかを模索する“生存競争”が日々繰り広げられていたのだ。
「お前、新入りだな?」
トマトが話しかけてきた。真っ赤な顔で、まるで歴戦の勇士のような風格がある。
「俺はレタスだ……というか、なんで野菜が話してるんだ?」
「ここは『サラダニア王国』だ。俺たち具材は、いかに最後まで食べ残されるか、それが生存の鍵なんだよ。」
どうやら、この世界では「サラダ」が食卓に出されるたび、具材同士で“いかに人間に避けられるか”を競うのが常だった。戦いのルールはシンプル。「最後まで皿に残れば勝ち」。だが、ドレッシングに絡め取られたらアウト。食卓に並んだ時点で、逃げ道はない。
「いいか、ドレッシングには気をつけろ。絡まれたらおしまいだ!」
トマトがそう警告したその瞬間、皿の上にチーズドレッシングが降り注いだ。ねっとりとした液体が俺の葉を滑ってくる。まずい、このままでは食べられてしまう!
「おい、レタス!巻き込まれるな!」
トマトが叫ぶが、俺は考えた。ここでじたばたしても無駄だ。ならば──!
俺は自分の葉を意図的に広げ、わざとドレッシングをたっぷり吸い込んだ。そして、ニンジンの輪切りに向かって叫ぶ。
「おい、俺は今から美味しそうに見えるようにする! その隙にお前たちは逃げろ!」
「正気か!? お前、まさか自分を犠牲にする気か!」
「俺はレタスだ。サラダの主役はいつだって俺なんだよ!」
ドレッシングにまみれた俺は、人間たちの目に最高に美味しそうに映ることを確信した。そしてその通り、フォークは迷わず俺に突き刺さった。
だが──次の瞬間。
「……うーん、なんかレタス多すぎじゃない?」
人間が呟き、俺を皿の端に寄せた。俺は食べられず、最後の一枚まで生き残ったのだ。
「ふう、これで勝ちだな……」
俺は勝者としての誇りを胸に、食卓の戦いを終えた。サラダの主役はレタス。それがこの世界の真理だ。
トマトが苦笑しながら言った。
「さすがだな、レタス……いや、もうお前は英雄だよ。」
こうして俺は、異世界サラダニアの伝説となったようだった。
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